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新浪 剛史
2017/02/15

新浪剛史「上位1%とは戦わず、彼らを使う方法を考える」

会社で生き抜くためにすべきこと――新浪流サバイバルビジネス術 #2

 三菱商事から43歳でローソン社長に転じ、2014年にはサントリーホールディングス社長に就任した新浪剛史氏。傍目には順風満帆な社会人人生に思えるが、三菱商事就職時の配属先は、このままでは存続自体が危うい部署だったという。そこで新浪氏が学んだこととはなにか。すべてのビジネスパーソンに贈る、新浪流サバイバルビジネス術。

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 三菱商事では「格好いいことには利はない」ということを徹底的に教わりました。しっかりと下積みを積む。お客様の対応から上司とのコミュニケーションまで、仕事はカッチリとする。商事では入社から3~5年で、そうやって人を育てる文化があります。

 私は当時、朝7時半に会社に出社していたのですが、オフィスに着くとテレックスが来ています。しかし、読もうとしても内容はよくわかりません。でも、朝早く出社していると、先輩が「君、わからないことはあるか」と教えてくれるのです。夜も遅くまで残っていると教えてくれる。つまり、入社3年目くらいまでは、いろいろ工夫して先輩たちと多くの接点をもつことが重要なのです。いまの働き方改革の方向性とは逆ですが(笑)。

 週末は遊んでいいけれど、土日のどちらかは勉強する。私は土曜日に横浜の公立図書館に行って、朝9時から夕方5時まで本を読んだり、ビジネススクールに行きたかったのでGMATやTOEFLの勉強をしました。そして日曜日は社内のバスケット部の活動に精を出すといった具合です。

Jim Beam クレアモント蒸溜所にて

 自分で勉強しながら、先輩たちと接点を持つために、会社に早く行って、夜遅くまでいることを繰り返しました。すると、自分でどんどんわかるようになっていきます。そして、さらに上の上司から飲みに誘われたり、いろんな話を聞いたりすることができたのです。

礼状を書いて、仲間を増やす

 尊敬する上司から良いと薦められた本を必ず読みました。読んでつまらないと、時間のムダ。上司にはいつも「最近、良い本はありませんか?」と聞いていました。

 英語の勉強もそうです。当時、テレックスはすべて英語でしたから、テレックス用に原稿を書いたあとに直されるのです。先輩からは徹底的に真っ赤にされます。そこで鍛えられました。むろん腹も立ちましたが、そのとき上司から、「お前はそこで文句を言うからいい。唯々諾々と受けていては改善しないぞ」と言われました。それをいいことに、その後は上司に文句を言うようになったのですが(笑)。

 若いときは頭にくるときがあってもいい。食って掛かったっていいんです。しかし、そのためには勉強しなければなりません。私の場合は、先輩や上司には負けたくないと常に思っていました。上司に薦められた本を読んで、飲みに行って、議論する。そして、3~5年上の先輩よりも勉強して良い仕事がもらえるようにしたい。それは社内で評価されたかったからだけではありません。

 社外の勉強会では一番年下でしたから、「こいつは見所があるな」と思われるようにするにはどうすればいいのか、それを考えていました。社外の評価を上げるためには勉強会で発言しなければなりません。まわりの皆さんは大変賢い方々で、とくに竹中(平蔵)さんは弁もたつ。その中で注目されるには、どの分野でどう発言すればいいのか。さらに、そうした方々に、どうアピールすればいいのかを考えなくてはいけません。

 社外で活躍する方々と関係をつくるためには、当たり前なのですが会ったら必ず礼状を書くことです。そして、話した内容に関して自分の感想も書く。それをマメにやっていました。今なら電子メールがありますから、もっとやりやすいはずです。

 そうやっていると、社外に自然と仲間ができていくのです。みんな先輩ですから、「あなたみたいな若いヤツがいるのか」と感心してくれる。すると、「今度飯でも食べて、話をしよう」という機会が増えていくのです。ですから、夜は忙しかったです。勉強会の方々は活躍していて話も面白かった。そんな人たちと会うには、自分も魅力的でなければならない。だから、勉強したのです。

賢い人たちの意外な弱点

 その後、1989年にハーバード大学ビジネススクールに留学します。ハーバードでは、人生で一番勉強しました。1週間に6日、1日最低8時間は勉強しなければなりません。睡眠時間は3~4時間くらい。そんなに努力しても、ハーバードのトップの頭の良さは日本のそれとはレベルが違うのです。とくに上位1%は、なぜこんなに頭がいいのかと思うくらいの連中がいます。日本には上位1%でも、そんなに賢い人はいないでしょう。

 しかし、彼らにも弱みがあります。たとえば、哲学や歴史についてはよく知っているけれど、数学が苦手といったことです。MITから来た友人は理数系が強いのですが、組織の中でいかに立ち居振る舞えば結果をもたらすのか、といったコミュニケーションをとることが苦手でした。

良いところを伸ばすことが重要 ©榎本麻美/文藝春秋

 アメリカでは、人と何か違ったことがなければ、アピールできません。では、我々日本人は、どのような違いを出せばいいのか。その一つが、日本的なチームワークだったりするのです。優秀なアメリカ人は、確かに非常に頭はいいが、何かが欠けている。一方、日本人は全体のバランスがいいけれど、飛び抜けているところが少ない。意外にも人の好さは重要です。こいつは頼りになる、または裏切らない。「こいつは好いヤツだ」という特色がありました。

 ハーバードの根本的な考え方は、できる人間は使えということです。1人では仕事はできません。だからこそ、できる人間を使おうと私は思ったのです。そして、必ず優秀な人間にも弱点があるのだから、自分を卑下する必要はない。そんな考えをハーバードでは身に付けました。

上位1%とは戦わない

 ハーバードの授業は、相当な英語力がなければクラスでついていけません。しかも、言葉のニュアンスだったり、会話の中で歴史的な挿話を突然引用されるから、わからなくなるのです。そういう意味で、教養についても大学レベルの知識がなければ、太刀打ちできません。突然、トマス・ジェファーソンの話をされることはあっても、こちらから桃太郎の昔話をするわけにもいきませんから。根っこの部分で共通した基盤がないから、日本人にとっては生産性が悪いのです。

 私の成績は当時の同期の日本人では一番でしたし、勉強自体はそれほど難しくなかった。ただ、上位1%とは圧倒的な差がありました。だから、彼らとは戦わないことに決めました。

 というのも、彼らは驚くことに、知見もあり、性格もすごくいい。私が一緒だった同級生は、クロールで世界選手権6位だったヤツです。ハーバード大学の卒業生で「成績優秀」でした。授業の後には電話をしてくれて、「タック(新浪さんの呼び名)! 授業で何かわからなかったことはなかったか」と聞いてくる。そして、ビールでも飲まないかと誘ってくれるのです。こちらは明日の予習をやっているのに、冗談じゃありません(笑)。

 でも、日本人である私には、組織をどう束ねて一つの方向に持っていき、コミュニケーションをとってモチベーションを高めることに強みがある。そう思っていました。むろん日本的マネジメントの良さも悪さもあるのですが、アメリカのマネジメントと比較して、良いところを伸ばし、悪いところは改善すればいいのです。

聞き手:國貞 文隆(ジャーナリスト)

新浪 剛史 サントリーホールディングス株式会社代表取締役社長

1959年横浜市生まれ。81年三菱商事入社。91年ハーバード大学経営大学院修了(MBA取得)。95年ソデックスコーポレーション(現LEOC)代表取締役。2000年ローソンプロジェクト統括室長兼外食事業室長。02年ローソン代表取締役社長。14年よりサントリーホールディングス株式会社代表取締役社長。

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