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「役に立たない学問」を学んでしまった人文系“ワープア博士”を救うには……?

非常勤講師「雇い止め」で「ガードマン」に

2019/04/15

genre : ニュース, 社会

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「博士課程単位取得」のあと「ビルの清掃作業員」に

 筆者の身近にもそういう社会問題を体現している人物が2人いる。多少は話をぼかして紹介するが、いずれも年齢的には私と同年代の30代後半で、博士課程単位取得退学者(学位は修士)だ。

 例えばA君はもともと古代中国の学術史を研究しており、私が原稿を書くときに漢文の書き下し文をアルバイト的にチェックしてもらうこともある(例えば前回寄稿した「新元号『令和』、中国人はどう捉えた?」でもお手伝いいただいた https://bunshun.jp/articles/-/11357)。ただ、そんな彼の現在の職業はビルの清掃作業員だ。もちろん非正規労働者である。

 A君の年収は200万円くらいだ。対して毎月、大学院時代に借りた奨学金の返済で4万円(総額500万円程度)、家賃4.5万円プラス光熱費、国民健康保険料が飛んでいく。先日、年金の支払いを滞納していたところ給料を差し押さえられてしまい、極度に困窮したと聞いた。

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 見かねた私が、生活苦を理由に奨学金返済を猶予してもらえばどうかと提案したが「好きな勉強をさせてもらったのだから払うのは義務」と言って聞かない(この手の妙な律儀さというか融通の効かなさは、高学歴ワーキングプアの人に多く見られる特徴だ)。

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「雇い止め」され、大型スーパーの「ガードマン」に

 対してB君は、近代の日本占領時代の某国の宗教問題を研究している。彼はすさまじい博覧強記の人であり、例えばウェーバーでもマルクスでも孟子でも思想の概要を説明できる。インド人民党やアラブのバアス党の性質や、中央アジアのタンヌ・トゥヴァがソ連に併合された経緯について前フリ抜きでいきなり尋ねても、簡単な解説ならできてしまう。

 言語能力的な面でも、B君は英語と現代中国語と漢文のほかに、タイ語・シャン語・ビルマ語・クメール語の読み書きができて、ベトナム語とフランス語もすこし読める(※本人特定を避けるために個々の言語名はフェイクとする)。私は彼にこれらの国のニュースを調べてもらったり、現地の過激派組織が出した声明文を訳してもらうこともある。

 だが、そんなB君の年収は150万円ぐらいだ。昨年度、非常勤講師として勤務していた某大学で雇い止めに遭い、現在の職業は大型スーパーのガードマンである。