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小泉 悠
2017/02/11

プーチンとトランプを結ぶ11人の男たち

石油王からプーチンの柔道仲間まで

 ロシアに好意的な発言を繰り返すトランプ氏が米国大統領に就任したことで、米露の接近が取りざたされている。しかし、米政権内の親露派については知られていても、ロシア政府内にどのようなキーマンが存在するのかは意外と知られていない。そこで以下では、プーチン大統領を取り巻く重要人物たちを紹介してみよう。

 公式の外交チャンネルを代表するのはセルゲイ・ラヴロフ外相である。

筋金入りの外交官、ラヴロフ外相 ©getty

 ロシア外務省付属国際関係大学卒、ロシア外務省勤務を経て外相という筋金入りの外交官で、フランス語に堪能なことで知られる。ただし、米国に対する姿勢はどちらかと言えば強硬派で、ウクライナ問題やシリア問題でも米国とは激しくやりあってきた。

プーチン政権のアンタッチャブルな存在

 この意味で鍵を握るのは、国営石油企業ロスネフチのセーチン会長であろう。

プーチンとセーチン(右)©getty

 ロスネフチは年間の総売り上げが800億ドルを超える巨大石油企業であり、天然ガス企業ガスプロムとともにロシア経済の屋台骨とも言える存在。2011年には、現在のティラーソン米国務長官がCEOを務めていたエクソン・モービルとの間で北極圏の油田開発に関する「世紀の合意」を結んだ。いわばセーチン氏はティラーソン氏のカウンターパートであった人物と言える。

 しかも、セーチン氏はただの石油企業の会長ではない。プーチン大統領と同じくレニングラード大学法学部の出身で、一時期はポルトガル語の通訳として内戦中のアンゴラに派遣されていたことから、KGBの協力者だったのだろうと言われている。さらにソ連崩壊後、プーチン氏がサンクトペテルブルク市副市長になると秘書として働き、大統領府に移るとセーチン氏も後を追って大統領府入りしている。

 プーチン政権成立後は大統領府副長官や副首相を務め、この間の2006年にロスネフチ会長を兼務するようになった。2012年以降はロスネフチ会長に専念しているセーチン氏だが、石油産業はもちろん、プーチン大統領個人に対しても、大統領を支える情報機関人脈にも顔が利くだけに隠れた有力者と見ることができるだろう。

ティラーソン米国務長官 ©getty

 それだけに、ロスネフチとセーチン氏はプーチン政権内でも一種のアンタッチャブルな存在である。

 たとえば昨年11月には、アレクセイ・ウリュカエフ経済発展相が現職閣僚でありながら逮捕されるという衝撃的な事態が発生した。巨額の贈賄容疑が公式の理由だが、実際にはセーチン氏との対立が原因だったという説が有力だ。原油価格下落による赤字を補うため、近年のロシアでは主要国営企業の株式売却が盛んに論じられてきた。なかでもウリュカエフ氏はロスネフチ株の売却を進めようとしていたが(売却先の候補には日本も入っていた)、これがセーチン氏の利権を直撃したのではないか、と見られている。ウリュカエフ氏の正式な後任はまだ決まっておらず、現在は経済発展省次官のエフゲニー・エリン氏が経済発展相代行を務めている。

パイプライン利権を牛耳るロッテンベルク兄弟

 いずれにしても、トランプ政権がロシアとのエネルギー協力を推し進めようとするならば、ロシア側でもエネルギー部門の発言権は強くなることが予想される。たとえば昨年末に原油減産を巡ってOPECと激しい攻防を繰り広げたエネルギー相のノヴァク氏、もうひとつの巨大エネルギー企業ガスプロムのミレル会長、プーチン大統領の柔道仲間でパイプライン建設利権を牛耳るロッテンベルク兄弟などを挙げることができよう。

ノヴァク・エネルギー相(左)とアルカディ・ロッテンベルク氏(右。弟はボリス・ロッテンベルク氏)©getty

安全保障とプーチン「四人組」の面々

 安全保障面では、情報機関の役割が増すことになりそうだ。ロシアの情報機関による米大統領選への介入疑惑が大きな問題になっているが、こうした介入の手段としてだけでなく、トランプ政権(特に元DIA長官のフリン安全保障問題補佐官)が重視するイスラム過激派対策でも情報機関の役割は大きい。

マイケル・フリン米安全保障担当補佐官 ©getty

 この意味では、安全保障政策の司令塔である安全保障会議のパトルシェフ書記(元KGB)、ボルトニコフ連邦保安庁(FSB)長官ナルィシキン対外諜報庁(SVR)長官などがキーパーソンと言える。特にパトルシェフ氏とボルトニコフ氏は、プーチン大統領と共にクリミア介入を決定した「四人組」のメンバー(残りはセルゲイ・イワノフ大統領府長官〈当時〉)と言われ、プーチン大統領の信頼の厚さが伺える。

パトルシェフ書記(左)、ボルトニコフFSB長官(右) ©getty
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