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チームトランプ図鑑 金持ちケンカせず編

チームトランプ図鑑 金持ちケンカせず編

2017/01/26
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ゴールドマン・サックスがいっぱい

 トランプ政権主席戦略官のスティーブ・バノン(63歳=以下カッコ内は年齢)は元ゴールドマン・サックス社員で、のち政治闘争に転じた、独立系戦略家である。チーム・トランプにはバノンをはじめ、公職についたことのない民間出身者からの抜擢が多い。とくに米投資会社大手ゴールドマン・サックス色が強いのが特徴だ。

 同社の現社長兼最高執行責任者(COO)のゲーリー・コーン(56)は米国家経済会議(NEC)委員長に、同社元幹部のスティーブン・ムニューチン(54)は財務長官に指名された。ムニューチンは自身の投資会社経営のほか、「アバター」「X-MEN」などの映画製作への投資家としても名を馳せる。

ゲーリー・コーンNEC委員長

「クリントンは金融業界の操り人形」と大統領選で批判しておきながら、自ら同業界人を重職に登用した(トランプは金融業界から受け取った献金はわずか。その額はクリントンの0.4%に過ぎず、操り人形になるわけでない)。その意図は何か。答えは、勝ち組の資質「もっとも賢い」「偉大な交渉人」である点を重視してのことだ。

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 トランプは言う。「そうした中にはひどい人間もいる。とくにウォールストリート(金融業界)の交渉人たちは、冷酷なヤツらやみじめなヤツらもいて、一緒に夕食をとる気にならないが、そんなことを俺は気にしない」「世界最高の人材が得られる」からだ。

スティーブン・ムニューチン財務長官

 そんな「世界最高」の彼らに何を「交渉」させるのか。トランプは選挙中から、知恵袋であるナバロ国家通商会議議長(67)やロス商務長官(79)、バノン首席戦略官らと経済・財政・金融・エネルギー政策について組み立ててきた。これからは、いよいよ民間企業への交渉・説得に当たらせるのだ。こうした手法がもっとも得意なのがゴールドマン・サックス出身者だとして、首席戦略官バノンはこう語る。

「(自分たちでマスタープランは立てるが)矢面に立たず、新規事業は別の会社にやらせ、二番手でマーケットをとっていく」。政治用語に言い換えれば、民主導で合意形成を促す形を演出しながら、政府は背後で手綱を引いて結果を出していく交渉手法だ。

モノ言う株主 政権最長老のアイカーン特別顧問

 公約の目玉の一つ規制改革では、総資産178億ドルの投資家のカール・アイカーン(80)を特別顧問に任命した。アイカーンはアクティビスト、いわゆる「モノ言う株主」の第一人者である。

カール・アイカーン特別顧問

 既得権益者の多い規制分野では、剛腕で発言力の強いアイカーンのような人物が改革を推し進めるのに適任なのだ。しかも、全閣僚・高官のなかで最高齢の80歳と重鎮であり、政府や業界関係者に対して、発言の自由度も重みもある。トランプは2015年の選挙キャンペーン中から「俺はアイカーンを交渉人にする」と公言していたぐらいだ。

トランプの右腕 グリーンブラット国際交渉代表

 交渉といえば、「国際交渉特別代表」に指名されたジェイソン・グリーンブラット(50)も忘れてはならない。トランプ自らが経営する「トランプ・オーガナイゼーション」の最高法務責任者を長年、務めてきた右腕だ。

左側の人物が、グリーンブラット特別代表

「私は彼にあらゆる種類の国際的な交渉事、世界中の貿易協定に関して、アシスト役を果たすよう頼んだ」と発表。さまざまな国々との外交から通商協定まで、トランプは再交渉を公約にする中、自身の交渉術を熟知した側近中の側近を大統領直轄の秘書役として起用したのだ。

ハンバーガー屋が労働長官、プロレス団体創業者が中小企業庁長官

 公職経験のない民間からの登用は、ほかにもいる。ファストフード大手「CKEレストランツ」の経営者アンディー・パズダー(66)は労働長官。プロレス団体「WWE」の創業者で元CEOのリンダ・マクマホン(68)は中小企業庁長官。二人ともゼロから起業したサクセスストーリーの体現者である。

アンディ・パズダー労働長官
リンダ・マクマホン中小企業庁長官

神経外科医なのに住宅都市開発長官になったベン・カーソン

 住宅都市開発長官には、神経外科医ベン・カーソン(65)が就任する。その功績から「大統領自由勲章」を授与、「世界で最も賞賛に値する人物」に選ばれるなど、アメリカ医療・科学界の「レジェンド」の異名をもつ。ただ当然のことながら、医療と住宅は専門分野がまったく違う。元は共和党予備選でトランプのライバルだったが、選挙戦から撤退後、トランプ支援に回った論功行賞的人事と批判もされている。だがこれはちがう。

ベン・カーソン住宅都市開発長官

 黒人や都市の貧困問題は「“黒人のアメリカ”のためのニュー・ディール」演説にあるように、大統領にとって優先課題のひとつだ。それを担うカーソン氏はトランプが選挙中、唯一その人格を高く評価した人物である。ほかの候補者に対して悪態をつく中、「とってもいいヤツ」とまで称賛した。

 同省は公共住宅など巨大な予算を持つ。支持層の低所得者向けに予算を増額したい民主党と自立を促すために縮小を求める共和党が真っ向から対立する官庁だ。そこで、人格者カーソンの出番である。貧困家庭で生まれ、公共住宅で育った経歴もある。そんな彼に両党が対立する問題を乗り越え、貧困問題の解決のあり方を託したのだ。

「地球温暖化対策の敵」プルイット環境保護庁長官

 このようにトランプ新政権においては民間登用が注目されがちだが、政治家など公職経験者組からも「勝ち組」の交渉人たちを多数、採用している。

 環境、教育、エネルギー行政を司る3つの省のトップに選んだのは、担当する省の存在意義を認めず、廃止に追い込むために戦ってきた「闘志」たちだ。

スコット・プルイット環境保護庁長官

 環境保護庁(EPA)長官には、オクラホマ州司法長官のスコット・プルイット(48)が指名された。EPA批判の急先鋒で、EPAを相手取って訴訟を起こしたり、環境規制を緩和する法律を立案してきた張本人がトップに就く。地方・農村部でのトランプ圧倒的支持の背景には、「反EPA規制」公約があった。過剰な環境規制のせいで、長年耕してきた農地を追われ、法外な罰金を科せられるなど、苦しめられてきた多くの農家の存在がある。

 また、地球温暖化対策などエネルギー規制の分野もプルイットが管轄する。過激な環境活動家からは「温暖化対策の敵」と糾弾されているが、本人は保守派の法律家らしく「人間の活動が気候変動に与える程度とその対策案のコストと便益の関係について、多様な観点を代弁していく」といたって冷静だ。

エネルギー省廃止論者がエネルギー省長官

リック・ペリーエネルギー省長官

 エネルギー省長官にはリック・ペリー前テキサス州知事(66)が就く。エネルギー自給100%を目指すトランプ政権にとって、大資源州テキサスをはじめとする関連業界の規制に精通したペリーの存在は大きい。加えて、同氏はかねてからエネルギー省廃止を主張しており、その規制改革について熟知し、先導してきた人物である。「反エネルギーの規制が何十万ものいい仕事を殺してきた」が持論のトランプの頼れる相手だ。

「落ちこぼれを作らない法」を廃止 デボス教育長官

 教育分野でも同じだ。長年、教育の規制改革に取り組んできた「子供のためのアメリカ連合」議長のベッツィー・デボス(59)を教育長官に指名した。

ベッツィー・デボス教育長官

 トランプは「アメリカは子供一人当たりの公的教育費が世界でもトップなのに、その教育は世界ランキングが25位という。恥ずべきことだ!」とトランプは選挙中から訴えてきた。その失敗の原因として、教育制度自体が「進歩主義者にとって子供たちへの洗脳行為の場になっている」ことをあげる。たとえば、連邦政府主導の「コモンコア」(学習到達度の全国統一基準)、「NCLB」(落ちこぼれを作らない法)などだ。改革者デボスの元で、それらを廃止し、スクールチョイス(学校選択制)などを推進し、教育の自治を地域や家庭に取り戻していく。

国連改革に挑むヘイリー国連大使

ニッキー・ヘイリー国連大使

 制度が疲弊しているのは国際機関でもいえることだ。国際連合がその象徴だ。各国からの拠出金に依存しているが、その使途や会計が不透明なばかりか、イデオロギー色の高い利益団体の巣窟になっている。そんな国連をトランプは、「いい時を過ごしたい人にとってのただの社交場になっている」と呼んできた。「私が大統領になれば、その様子は一転する」というトランプが国連に大使として送りこむのが、サウスカロライナ州知事のニッキー・ヘイリー(45)である。行政機構における「透明化と説明責任」改革の第一人者だ。彼女のこれまでの実績を国連改革に持ち込もうとしているのだ。

アメリカ「経営」のキーマン マルバニーOMB局長

ミック・マルバニーOMB局長

 もちろん、国内の行政でも同じ問題を抱える。「米国が赤字漬け」になったのは、政府は「責任ある形で財政を運営する方法」を知らないからだ、とトランプ氏はいう。そこで、行政管理予算局(OMB)局長には、ミック・マルバニー下院議員(49、サウスカロライナ州選出)を指名。民間企業の経営経験と法律家としての経歴にくわえ、議員としては財政均衡に取り組んできた実績をかわれた。トランプが議会に提出する予算教書のまとめ役となる。指名を受けたマルバニーは、「政府の予算と財政を再び健全な状態に戻す」と意欲を示す。

オバマケア撤廃が使命のプライス厚生長官

トム・プライス厚生長官

 トランプの選挙公約「医療保険改革法(オバマケア)の撤廃」を担うのが厚生長官に指名されたトム・プライス下院議員(62、ジョージア州選出)である。トランプ当選の一要因として、オバマケア導入で保険料の高騰に苦しむ中間層がその撤廃公約に賛同した面は大きい。その重責につくプライスは、長年、整形外科医としてクリニックを経営してきた経歴を持つ。政治家に転じたのちは、政府のムダを指摘し、予算削減を追求してきた。公的医療については、トランプと同じく、民間保険の競争を促す政策の支持者である。

シーマ・ベルマ メディケア・メディケイド・サービスセンター所長

 厚生省傘下で、既存の医療保険「メディケア(高齢者向け)・メディケイド(低所得者向け)サービスセンター」を管轄し、その改革をすすめるのがシーマ・ベルマ所長である。医療政策専門のコンサル会社のCEOで、その道のプロだ。マイク・ペンス次期副大統領(インディアナ州知事)のおひざ元で、メディケイド制度改革を設計した実績もある。

不法移民の本国送還が至上命題 セッションズ司法長官 

ジェフ・セッションズ司法長官

 司法長官にはジェフ・セッションズ上院議員(70、アラバマ州選出)が就く。セッションズ氏は法曹界で連邦検察官や州司法長官を歴任しており、トランプは「世界クラスのリーガルマインド」と称賛する。移民法を執行する司法長官としての最大の任務は、トランプの公約「不法移民の本国送還」の法運用と議会対応だ。セッションズは「法の支配」の考えから、不法移民の滞在を容認している「移民の聖域都市」(サンクチュアリー・シティ)に批判的である。選挙期間中、トランプを最初に支持した上院議員として知られる。支持した理由として、トランプのビジョン「ワン・アメリカ(アメリカの統合)」に共感したからだとしている。

「諜報の戦士たち」を束ねるポンペオCIA長官

マイク・ポンペイオCIA長官

 米中央情報局(CIA)長官に指名されたのは、マイク・ポンペイオ下院議員(カンザス州選出)である。陸軍士官学校を首席で卒業後、陸軍では東西ドイツ統合前に「ベルリンの壁」監視業務にあたっていた。その後、ハーバード大法科大学院を卒業し、軍需産業で起業するなど多彩な経歴をもつ。議会では諜報委員会に所属し、「ベンガジ事件」(2012年、リビアのベンガジで発生した米国在外公館襲撃事件。大使を含む4人が殺害された)に際しては、その上院特別調査委員として、ヒラリー・クリントンの責任を追及した実績がある。指名を受けて「諜報の戦士たちとともに働くことを楽しみにしている」と抱負を述べた。

 こうした「実務のプロ」で「ポジティブ」な面々のリーダーに立つトランプだが、彼は自分の役割をこう語っている。

「俺は勝ち続けるアメリカのチアリーダーだ」。

写真=getty

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