66頭の牛を襲撃(死亡32・負傷32・不明2)して、神出鬼没の「忍者グマ」「牛を襲うヒグマ」とも称された「OSO18」。そんなOSO18を伝説のハンターたちとともに追い続けたのが、NHKのディレクター・有元優喜氏と山森英輔氏だ。
道東を恐怖と混乱に陥れたOSO18の正体とは、いったい何だったのか——。ここでは、有元氏と山森氏の共著『異形のヒグマ OSO18を創り出したもの』(講談社)より一部を抜粋して紹介する。(全4回の1回目/2回目に続く)
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街中だからといって安心できる時代は終わり
「OSO18で番組をやろうとしてるんですか?」
喫煙所でばったり出会ったとき、山森に単刀直入に聞いた。
「やろうとしてるよ」
「実は僕もやりたいと思っていて……一緒にやりませんか」
山森は私より15歳近く年上の先輩だった。前年、同じタイミングで札幌に転勤してきて以降、一緒に仕事をしたことはなかったが、先輩、後輩の関係として、いつも喫煙所や居酒屋でドキュメンタリーについて語り合う間柄だった。山森がOSO18の企画を出そうとしているという話を局内で聞いたのだ。
私がOSO18の存在を知ったのは、その3ヵ月前、2021年8月だった。
その年、全道のヒグマによる人身被害は、史上類を見ない件数にのぼっていた。8月までの死傷者は12人に達し、統計が残っている1962年以来、最多の数に及んだ。とくに全国的に報じられたのが、6月18日、札幌の中心部に白昼堂々ヒグマが姿を現し、通行人4人に襲いかかった事件だった。
自衛隊駐屯地に侵入して隊員に襲いかかる姿や、歩行者に背後から飛びかかる様子が撮影され、テレビでは繰り返しその映像が流されていた。死者こそ出なかったものの、近隣に山や森がない住宅街にヒグマが現れることは前例のない事態だった。街中だからといって安心できる時代は終わり、野生による逆襲の時代が始まった、と専門家やメディアは伝え続けていた。