66頭の牛を襲撃(死亡32・負傷32・不明2)して、神出鬼没の「忍者グマ」「牛を襲うヒグマ」とも称された「OSO18」。そんなOSO18を伝説のハンターたちとともに追い続けたのが、NHKのディレクター・有元優喜氏と山森英輔氏だ。

 道東を恐怖と混乱に陥れたOSO18の正体とは、いったい何だったのか——。ここでは、有元氏と山森氏の共著『異形のヒグマ OSO18を創り出したもの』(講談社)より一部を抜粋して紹介する。(全4回の3回目/4回目に続く

写真はイメージです ©KhunTa/イメージマート

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冬の間に行った足跡捜索をもとにした捕獲作戦

 山森からの電話を受けたとき、私は、驚きを隠せなかった。3週間前、藤本が今年最初に被害が起き始めると予言していた場所が、まさしく阿歴内(あれきない)だったからだ。

 遡ること3週間前、2022年6月10日。

 標茶町で第2回OSO18捕獲対応推進本部会議が開かれていた。私たちは藤本から信頼を回復したとはいまだ言い難かったが、会議は全メディアに公開されるということで、カメラマンとともに撮影に入っていた。

 道庁や標茶・厚岸両町の役場、猟友会、農協、専門家など30名以上が集まる中、その会議の中心人物こそが藤本だった。藤本は、冬の間に行った足跡捜索をもとに、捕獲作戦を語り始めた。

 まず、OSO18が冬眠している可能性の高い森を突き止めるに至ったという。

 それが厚岸町西部に広がる上尾幌(かみおぼろ)国有林だった。もともとヒグマの生息密度が低い森である。

 2月から3月にかけての残雪期、藤本たちは標茶町、厚岸町の周辺にある森の中を大きく6つのエリアに分けたうえで、23日間をかけてしらみつぶしに捜索を行った。多くの森で、ヒグマの足跡や糞を採取したものの、大きさが小さすぎたり、DNAが一致しなかったりと、OSO18らしきヒグマが生息しているとは言い難かった。

 ただ唯一、上尾幌国有林では、それらしき足跡が見つかった。人間に見つからない沢沿いを慎重に歩いていく幅18cm前後の足跡だった。

 この森にOSO18は潜んでいるかもしれない。その仮説の裏付けを、もうひとつの事実から藤本は示した。

 スクリーンには、これまでの全57頭分の被害地点がグーグルアースに落とし込まれている。年ごとに異なる色のピンが落とされた地図である。不規則に思えた被害には、たったひとつ、ある規則性があった。