OSO18はごく普通のサイズ

 しかし、この日現場で見つけた足跡を測ると、大きくて16~17cm程度しかなかった。足跡の土の沈み込みや歩幅からしても、「超巨大ヒグマ」と呼べるほどの大きさだとは考えられない。

「いまOSO18が何か伝説的な話になりつつあるけど、ごく普通のサイズだと思う。特段、怪物的なクマではない」

 では、なぜこれまで18cmだと公表されてきたのか。

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「ほとんどの足跡はこういう状態が多いんだ」と藤本は写真を出しながら、測り方の難しさを語った。四足歩行のヒグマが歩くと、多くの場合は、前足が踏んだ跡の上に後ろ足の跡が重なる。

 だから、実際の前足よりも大きい跡が残されることになる。足の周りには毛もついているため、それによっても跡は大きくなる。このことを理解して測らないと、正確な大きさは割り出せないというのだ。

条件が整った前足跡は16cm前後

 この日、藤本が現場で探したのは、ヒグマが方向を転換するときなどに時折できる、後ろ足の重なっていない前足単独の跡だった。このように条件が整った前足跡を測ると、いずれも16cm前後だと判明したのだった。

「どっかの段階からか、虚像化されて、OSO18は足跡が18cmあって、体重は400kgを超えて、体長は3mあると。何か空想上のクマになってるけど、現実をしっかり見ていくと、そんなクマではないっていうのがはっきりわかる。体長は1.8から2.1m、体重は280kgから310kg程度、どこにでもいるオスの成獣だ。足跡は16cm。OSO18じゃなくて、OSO16だ」

 冬の間、藤本や赤石は、18cmの足跡を探し続けていた。しかし、その前提が間違っていた。探すべき足跡の大きさがそもそも違っていたのだ。

 そして、OSO18が想定より小さいということから、同時に推測できることもあった。

 OSO18が牛を傷つけるだけのケースが多く、襲った獲物に執着しなかった理由である。2021年までに襲われた57頭のうち半数を超える29頭が、食べられていないどころか、殺されてすらおらず、傷つけられただけだった。その奇怪な行動により「ハンティングを楽しんでいる」「猟奇的」とまで言われるようになった。

 しかし、この日被害を受けた3頭の牛に関して、興味深い事実があった。負傷した牛を安楽死させるためにやってきた獣医の話によると、3頭のうち、唯一殺されていた牛は、事件前から足を怪我しており、3日前に処置をしたばかりだということだった。この牛は、事件当日も足に痛みを抱えながら過ごしていたと思われた。