「殺さなかったのではなく、殺せなかった」可能性

 OSO18が想定以上に小さいという仮説も踏まえると、「猟奇的な行動」を紐解く、以下の可能性が考えられた。

――OSO18は半数以上の牛を殺さなかったのではなく、殺せなかったのではないか。  

 大きい牛であれば、体重は400kgを超える。OSO18が300kg前後の個体だとすれば、自分より大きい動物に立ち向かっていった、ということになる。牛に蹴られて人間が重傷を負う事故も起こるくらいだから、襲われかけて、牛が足を使ってヒグマに反撃するということも十分に考えられる。

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 OSO18は牛に近づいていき、爪を立てて襲いかかったものの、このような反撃を受けて、襲撃に失敗していたのではないか。

 そして、諦めきれずに、次から次へと牛を襲った。その結果、運よく抵抗の少ない牛を仕留めることができた。だから足を怪我していた牛だけが殺され、捕食されていた。負傷しただけの2頭と死亡した1頭の違いは、OSO18から逃げきれたかどうかの差だったのではないか。

OSO18の次の移動先

 OSO18が襲った牛に執着せず、現場に戻ってこなかったのにも十分な理由が考えられた。

 藤本が現場に駆け付けたとき、一番驚いたのは、牛の被害状況ではなく、その周囲にいる人間の数だった。牧夫、酪農家、町役場職員、地元猟友会ハンター、合計20名近い人間が被害現場に集結していた。誰もが牛の被害を気にして、現場の様子を確かめに来たのだった。

 ヒグマの嗅覚は、犬の100倍とも1000倍とも言われている。これほどの人間が現場に大挙すれば、辺り一帯に人間の匂いが否応なく残される。OSO18も慎重にならざるを得ず、仕留めた獲物がある現場には戻りたくても戻れない。おそらくそれは、これまでの被害現場でも同じような状況だったと考えられる。つまり人間の側が、その警戒心を煽っていたのだ。

 ただでさえ警戒心の強いヒグマが、人間の匂いの漂う東阿歴内牧野に戻ってくるはずもなかった。

 OSO18は別の牛を求めて、次の現場へ移動するだろう。藤本は、前年の動きから、すでに東の厚岸町の牧場へ向かい始めていると読んだ。東阿歴内牧野から厚岸町に向かって、ひと続きの林帯が伸びている。

 それは、OSO18が身を隠しながら移動するための「道」でもあった。

次の記事に続く 「骨と皮だけになったバラバラの死体が転がっていた」“謎のヒグマ”を捜索中、おぞましい被害現場に遭遇…そのとき現役ハンターが覚えた“違和感”

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