ドローンで周辺の状況を探る
しかし、お前たちには言えないこともある、という含みが常に藤本の言葉の中にはあった。おそらくまだ私たちは信頼されていないのだろう。だから、被害があった、ということすらも教えてくれなかった。
何にしても、情報を集めるために急いで阿歴内に住んでいる酪農家に電話をする。すると、詳細な被害現場を突き止めることができた。藤本がOSO18の予想ルート図に描き出していた到達点、東阿歴内牧野だった。
東阿歴内牧野まですでに向かっているであろう藤本を追いかけるように、車を走らせた。
牧野の近くに到着すると、渋滞が起きたかのように車1台分の細い農道に10台以上の車が並んでいた。最後尾の車の後ろに停車し、牧野の入り口まで歩いていく。
入り口付近では男たちが集まって、ドローンを飛行させていた。農協職員たちのようだ。標茶町役場から「熊被害発生」の連絡を受け、急遽現場に駆け付けたらしい。まだ近くにヒグマがいる可能性もあるため、ドローンで周辺の状況を探る役目を任されていた。
画面には、牧草地に横たわる牛の姿が映し出されている。
ドローンが降下していくと、腹から飛び出した内臓が確認できた。
操作する農協職員がつぶやいた。
「お腹これ食われてますよね?こんなの見るもんじゃない……」
腹の中から内臓がすべて引きずりだされ、腹の中は空になっている。
だが、ドローンで周囲をどれほど探してもヒグマの姿は確認できなかった。
傷を負うと治療しても回復が見込めない
牧草地の奥から酪農家が1頭の牛を引いて戻ってきた。
「これも傷つけられた牛だよ。クマに」
襲われたのは、1頭だけではなかった。引いてこられた牛は、首元から背中にかけて点々と爪痕が残り、肉がむき出しになっている。傷口には無数の蠅がたかり、血が脈を打ちながら噴き出し、毛の白い部分を赤く染めていた。爪によって開けられた穴は骨まで到達している。ヒグマの爪には細菌がいるため、このように傷を負うと傷口が化膿する。治療しても回復が見込めないため、その場で殺処分させられることになった。
ほかにもかすり傷を負っている牛が1頭見つかり、この日の被害は合計3頭に及んだ。
「またか……」
東阿歴内牧野の組合長を務める大谷正志がため息をついた。東阿歴内牧野では前年の6月24日にも被害が起き、1頭が死亡、2頭が負傷している。
