66頭の牛を襲撃(死亡32・負傷32・不明2)して、神出鬼没の「忍者グマ」「牛を襲うヒグマ」とも称された「OSO18」。そんなOSO18を伝説のハンターたちとともに追い続けたのが、NHKのディレクター・有元優喜氏と山森英輔氏だ。
道東を恐怖と混乱に陥れたOSO18の正体とは、いったい何だったのか——。ここでは、有元氏と山森氏の共著『異形のヒグマ OSO18を創り出したもの』(講談社)より一部を抜粋して紹介する。(全4回の4回目/3回目から続く)
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狩猟が禁じられた森での5頭を上限とした特別許可
冬が来て、また彼らは山に入った。
「――それ以上行ったらもう埋まるぞ」
無線からハンターの声が響く。この日の気温はマイナス6度、積雪52cm。朝から激しく降りしきる雪は、森のどこかにあるかもしれない手がかりを瞬く間に消し去ってゆく。
2023年2月12日。OSO18特別対策班は、2年目の捜索に出ていた。
ハンターの赤石のハイラックスに同乗し、私も上尾幌国有林の奥深くに入り込んでいた。前年の捜索でOSO18が冬眠している可能性が高いと、藤本が結論付けた森である。前夏の最後に牛が襲われた8月20日の被害も、上尾幌国有林に囲まれた牧場で発生していた。
もし今年も、この森でOSO18が冬眠しているとすれば、冬眠から目覚めてきたとき、どこかに足跡が残されるはずである。5593ヘクタールに及ぶ森で、その足跡を見つけ出すことができれば、追跡が可能となる。
上尾幌国有林は、狩猟が禁じられた森だった。狩猟期間であっても、野生動物を捕獲することは認められず、銃の発砲も許されない。だが、OSO18が冬眠している可能性が高いとわかって以降、藤本の要請に応じて、北海道庁が特別許可を発布していた。それは、特別対策班がOSO18を捕獲する場合に限ってのみ、発砲を許可するというものだった。
ただ、その身体に名前が書いてあるわけではない。目の前に現れたヒグマが本当にOSO18かどうかは、捕獲し、DNA分析をするまでわからない。そのため、現実的な取り決めとして、5頭を上限に、この冬の間、ヒグマを捕獲することが認められていた。