時折、真新しい人間の足跡が見えた

「――すごい雪だな」

「――これだと足跡も消えるな」

 赤石の車に装備された無線用スピーカーから、仲間たちの声が聞こえる。この日山に入った8人のメンバーは、それぞれの車で複雑に分岐する林道に分散していき、奥へ分け入っていく。

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 除雪がされておらず、降り積もった雪で道の端がどこなのかさえ、もはやわからない。ハイラックスの巨大なタイヤが、まっさらな雪の上に轍を刻んでいく。森の奥に入っていくにしたがって、雪は深くなる。ハンドルがとられて車の揺れも激しくなる。

 赤石はゆっくりと徐行しながら、前、右、左、とキョロキョロと窓の外に視線を配る。林道の脇に、それらしき足跡が残っていないか、見落とすことがないよう気を張っている。時折、真新しい人間の足跡が窓の外に見えた。

「――何人かで行ったり来たりしててまた道路に戻ってきてる足跡もあるな」

「――やっぱ捕る気になって来てるやつが見て歩いてるんだべ」

 OSO18が現れてから4度目の冬。日本全国から腕自慢のハンターが訪れ、この森に入り込んでいるという噂があったのだ。

写真はイメージです ©matsuya/イメージマート

 捜索を始めて1時間後のことだった。赤石の車が前に進まなくなる。

「ちくしょう。カメになっちまった」

 車の底面が雪に乗っかってしまい、タイヤが空転する。この状態を彼はカメに例える。抜け出そうと前進と後退を何度も繰り返すが、タイヤが地につかず、脱出できる気配はまったくない。

 しばらくすると、無線を聞いた仲間たちの車が、後ろから次々と駆け付けてきた。空転しているタイヤの付近にある雪を、地道にシャベルで掬い取り、横にどけていく。再びアクセルを踏むが、車は前に進まない。仲間のひとりが自分の車のウィンチからロープを伸ばし、赤石の車に取り付ける。

 車を勢いよく加速し、引っ張り上げる。赤石も同時に車のアクセルを踏む。空転するタイヤからは雪との摩擦で煙が上がり、焦げたゴムの匂いが漂う。

 引っ張る向きを変え、雪を踏み固める。試行錯誤が1時間も続き、ようやく抜け出すことができたのだった。