まだ古くない血の跡が。先へ進むと…

「この奥で穴を掘っている可能性はある?」

「ありますね。2ヵ所くらいは、土を掘って入っていた跡があったんです」

「普段は車だとかは行かないんでしょ?」

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「誰もこの奥は……あそこに門してますからね」

 この周辺がヒグマにとって棲みやすい環境になっているのかもしれない。藤本は町役場の職員にすぐに連絡を取って許可をもらい、湿原に隣接する森で探索を進めることとなった。 

 スノーモービルが林道を突き進んでいく。

 出発してしばらく経ってからだった。

 雪で白く染まった道の上に、赤い跡が点々としているのが見つかった。

「これ血の跡だ。まだそんなに古いものじゃないかもしれない」

 そこら中に散らばる血痕はいったい何なのだろう。さらに先へ進むと、その理由となったものが、姿を現した。

 林道上に、骨と皮だけになったエゾシカの死体が転がっていたのだ。頭部や胴体が分離し、ほとんど原形をとどめていない。

「バラバラだ……」

 何者かに食い荒らされた跡だった。道の先には、次々とエゾシカの死体が見つかった。この日見つかっただけでも、その数は4頭分にのぼった。

釧路湿原国立公園の禁猟区で見つかった食い荒らされたエゾシカの死体(写真=NPO法人南知床・ヒグマ情報センター)

保護区で守られたエゾシカの死体を食べて、肉食へと傾いていった?

 本来なら、ヒグマはこうした肉を食べることはめったにない。そう簡単に森の中で肉が手に入らないからだ。一般的なヒグマが食べるものの8割以上は、木の実や山菜など、植物が占めている。

 しかし同時に、ヒグマの食性は日和見的であるともいわれている。肉が容易に手に入る環境さえあれば、その味を覚え、しだいに肉食傾向へと傾いていく。

 釧路湿原鳥獣保護区に生息するエゾシカは、この8年間で2倍に増えたと推計されている。

 OSO18は保護区で守られたエゾシカの死体を食べて、肉食へと傾いていったのではないか。

 展望台の上から赤石は保護区を見渡していた。遠くで親子連れのエゾシカが走っているのが見える。

「シカがものすごい増えてきてるから死骸がすごくある。自然死したやつがあるし、事故死だとかそういうのあるから、クマも食いなれてきてんだ。あれ(OSO18)は特別になってるけど、また他のクマだって同じ(肉食)になるんでないか。だんだんと」

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