最初の襲撃地点と予想移動ルート

 藤本はわかりやすくするため、地図に年ごとの最初と最後の被害だけを表示した。例年の被害の始まりは6月下旬~7月上旬、最後の被害は8月下旬~9月下旬にかけてだ。それらの地点は、上尾幌国有林に面する阿歴内に集中していた。

「被害が起き始めるのは、例年6月後半から7月にかけて。この時期というのは草が生い茂って、クマからすれば自分の身を隠せるようになります。そうなってから襲撃行動を起こしている。ですから、この草が生い茂る時期、その時期を見計らって行動するクマっていうのは、やっぱりその地区の近くにいる。最初に被害が起きる地域の近くに潜んでいて、出てきたときに襲うっていうのがあるのではないかと。最後は穴に戻る直前、ようするに自分の穴の近くにまで帰る前に、襲っている可能性が高い」

 だとするならば、今年の被害も、冬眠から目覚めたOSO18は、阿歴内で最初の襲撃行動を起こすだろう。さらに、被害地点間をどのように移動しているのか、予想移動ルート図を藤本は描き出していた。スクリーン上に映し出された予想ルートは、上尾幌国有林から伸び、阿歴内にあるひとつの牧野に到達していた。そのポイントが、東阿歴内牧野だった。 

ADVERTISEMENT

2019年に撮影されたヒグマ(写真=標茶町役場提供)

被害現場へ向かうところなのに「なんでもないよ。ちょっと用事」

 7月1日、「阿歴内で被害が起きた」と山森から電話を受ける直前、私は藤本の事務所を訪ねていた。OSO18が襲撃を始める季節が訪れるなか、何としても藤本に同行取材の許可をもらいたい。数ヵ月前に迷惑をかけたことを改めて詫び、藤本が被害現場に駆け付けることがあればついて行かせてほしいというお願いをするためだった。

 事務所前に到着したときに目撃したのは、藤本が先を急ぐように赤いハイラックスに乗り込み、発車させる姿だった。車に駆け寄り、窓越しにどこへ向かうのかを尋ねた。

「なんでもないよ。ちょっと用事」

 それだけを言い残して、勢いよく走り去っていった。

 思えば、あのとき藤本は、牛が襲われたという連絡を受け、現場に駆け付けるところだったのだ。そのことを私には告げなかった。お前にはまだ情報は共有できない、というかのように。

 取材拒否を告げられて以降、たびたび詫びを伝えに行っていた。そして何度か顔を出すうちに、次第に最新の見立てを少しずつ教えてくれるようにはなっていた。