「今まで食べたことがないから、食べ方が分からない」

 児童相談所に保護された少年。みそ汁もご飯の食べ方さえ知らない彼は、いったいどんな生活をしてきたのか…? そして、母親はなぜ2週間も育児放棄したのか? 2024年に起きた事件の顛末をお届け。なおプライバシー保護の観点から本稿の登場人物はすべて仮名である。(全2回の2回目/最初から読む)

保護された少年はご飯とみそ汁の食べ方さえわからなかったという…。写真はイメージ ©getty

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母親から2週間放置された小学3年生

 事件発覚の2週間前、加奈は菓子パンやレトルト食品を買い置きし、「しばらくママは帰らないから、これを食べて待っててね」と言って、現金3000円を置いて家を出た。

 1人ぼっちになったカズヤくんは、毎日枕を濡らして寝ていた。加奈が男の家でセックスしていることなど知る由もなかった。

 それから2週間後、電気料金の滞納で電力供給を止められたのだ。カズヤくんは泣きながら隣人に助けを求めた。隣人はカズヤくんの携帯を借りて加奈に電話したが、一向に出ない。

 カズヤくんのズボンは破れていて、お腹が空いていたようなので、自宅にあげてご飯を食べさせた。

 次の日もカズヤくんはやってきて、「携帯を充電させてください」と玄関先で騒いでいたが、あまり入り浸られても困るので無視していると、別の家へ行き、「ママが帰ってこない。家のブレーカーが落ちた。電気もつかない」と訴えたため、その家の女性が110番通報した。

 やって来た警察官が家の中に入り、テーブルの上に所狭しとカップ麺や空き缶が並び、床はゴミ袋などが散乱し、トイレの水は汚濁し、郵便物が大量にたまっていることを確認した。

 カズヤくんに事情聴取したところ、「家に1人でいた。おばあちゃんにLINEして、食べ物を送ってもらっていた。洗濯はずっとしていない。先月から学校は行っていない。ママがどこへ行ったのか、知っているわけがない」などと話した。

 カズヤくんは児童相談所に保護されることになった。加奈は自宅アパートから15キロほど離れた与田宅に入り浸り、夫婦同然の生活をしていた。

 警察に居場所を突き止められ、保護責任者遺棄の疑いで取り調べを受けることになると、「子どもとどう向き合うべきか悩んでいた。息子が1人で抱え込んでいるのは分かっていた。最後の2週間については、置き去りにしたのは事実なので、息子には申し訳ないことをしたと思う」などと話した。

 加奈は2カ月後、同容疑で逮捕された。交際相手と一緒にいたいがために、カズヤくんを危険な状況に置き、生存に必要な保護をしなかったというものだ。