自らの欲望のおもむくままに生き、知的障害のある女性を内臓破裂、顔が変形するまで殴った殺人犯の男。警察から逃れるためヤクザの伝手も頼った男はその後どうなったのか? 2011年に起きた事件の顛末を、前後編に分けてお届け。なおプライバシー保護の観点から本稿の登場人物はすべて仮名である。(全2回の1回目/後編を読む)
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「同居している男に暴力を振るわれているんです。助けてください」
地方都市の警察署にDVの相談で訪れた30代の女性の申告から、思わぬヤマが解決することになった。
彼女の話では、同居している「松川信明」という男は、買い物に行くときも離れずに監視。逆らうと暴力を振るわれ、やっとの思いで脱出してきたという。
DV男の正体は…
警察官が女性の自宅に行くと、問題の男が寝ぼけ眼で出てきた。だが、警察だと分かった途端、男は慌てふためき、「オレはDVなんてしていない。彼女が部屋のドアを音を立てて閉めるから怒っただけだ」などと言い訳した。
「今すぐ逮捕というわけじゃない。事情を聴きたいだけだ。どっちにしても警察署には来てもらうよ」
男はしぶしぶ任意同行に応じ、「松川信明」と名乗った。その名前で生活保護も受けていた。ところが、その男は別の事件で服役中であることが分かった。
「アンタは何者なんだ?」
「いや、それは…」
男は追及され、ようやく観念して、「南田遼太郎です」と名乗った。その名前を聞いて警察が仰天した。長年行方を追っていた指名手配犯だったからである。指紋や口腔内細胞を分析し、紛れもなく南田遼太郎(50)であることが確認された。
「今までどこにいたんだ?」
「死ぬまで逃げ切ろうと思った。あちこちを偽名で転々としていた。松川信明については、ブローカーから戸籍を買っただけで、本人のことはまったく知らない…」
南田は約11年前、ビジネスホテルで一緒に泊まっていた女性(40)に暴行を加え、殺害した容疑で、指名手配されていた。