「日本三大ドヤ街」の一つ、大阪市西成区の釜ケ崎。YouTubeなどで「治安が悪い」イメージがふりまかれる一方、近年は違法露店や覚醒剤の路上密売は激減している。改善傾向にはあるが、今も摘発が続く街の露店を、記者が訪ねた。発売中の書籍『西成DEEPインサイド』(朝日新聞出版)から一部を抜粋・編集して紹介する。(全2回の1回目/2回目に続く)
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露店を構える中年男性から「薬を売りに来たの?」と…
2023年4月9日。統一地方選の投開票日の午前3時、「日雇い労働者のまち」として知られる大阪市西成区の釜ケ崎の路上に露店が並びだした。
広場やマンションがある一角で、100メートルほどの間にちらほら。午前5時には約20店に増えていた。
このうち半分ほどで、睡眠導入剤や抗不安薬のシートを置いていた。
医師の処方によらない無許可販売は、医薬品医療機器法違反などの罪に問われる。医師に処方された薬を露店商に売る行為も、露店商が客に売る行為も犯罪になる。
大阪市や大阪府警が力を入れる「西成特区構想」の治安対策の柱の一つが違法露店への対策だった。特区構想が始まって10年が過ぎ、改善傾向にはあるが、今も摘発が続く。
記者が露店を通りかかると、年配の男性から「薬を売りに来たの?」と呼び止められた。露店を構える中年の男性に話しかけると、よく知られている睡眠導入剤の売値は「1シート(10錠入りの包装)1千円」という。
「あっという間に売れちゃうよ」若い女性が2500円で購入したクスリは…
午前4時半になると客が増えてきた。
「これなら1錠でぐっすり寝られるよ」
別の売り手の中年男性にもちかけられ、若い女性が睡眠導入剤を手に取った。
男性に「あっという間に売れちゃうよ」と言われ、女性が2500円で1シートを買った。
女性は「○○もある?」と尋ねた。服用後に脱力感があって乱用につながりやすいとして、販売中止になった睡眠導入剤だ。
横にいた売り手の仲間の男性が「2週間くらい待ってもらったら手に入る。東京から仕入れるから」と告げた。