コメの値段の高騰が止まらない。江藤拓農相は2月の会見で、需要に見合うだけのコメの量は日本にあると述べた上で、流通が停滞して消費者に高い値段でしか提供できていない、と語った。しかし、その発言は妥当なのか――。

 

ベストセラー『対馬の海に沈む』の著者、ノンフィクション作家の窪田新之助氏のレポート「コメの値段はこの秋も上がる」から一部紹介します。

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本当に「スタック」しているのか

 コメには用途に応じた呼称が業界ではある。味噌や酒の原料は「加工用米」、家畜の餌は「飼料用米」、そしてもっとも一般的である炊飯して食べる分は「主食用米」と言う。

 このうち24年産の主食用米の相対取引価格が過去最高となった。つまり、江藤農相が「スタック(筆者注=停滞)」させていると難じた流通業者にとって、いまはまさに売り時であるはず。それなのにコメが十分に出回らないのは、別の理由を考えるのが妥当ではないのか。それは、そもそもコメが足りていなかったという当たり前のことだ。

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コメ価格の高騰が止まらない ©時事通信社

 根拠はいくつかある。全国におけるコメの民間在庫量が大きく減っていた、というのはその一つだ。

 同省がまとめた「米穀の需給及び価格の安定に関する基本指針」(25年1月)には、新米が出回る直前の6月末時点の民間在庫の年次別の推移が載っている。それによると、コメの価格高騰が起き始めていた24年6月末時点は153万トンと、1999年に統計を取り始めてから過去最低に陥っていた。価格高騰で世間を騒がせた11年と12年ですら181万トンと180万トンであり、今回の民間在庫量の減少がいかに深刻であるかが窺える。

 結果として24年の秋以降に起きたのは、コメの「先食い」だった。例年であれば新米は収穫直後から翌年の収穫が始まるまで長期にわたって売買される。ところが民間在庫量に占める24年産米の動きを見ると、卸売業者が早々に買い求めて行ったことがわかる。ある卸売業者の役員が証言する。

「たしかに24年は古米や古々米などの在庫が少なくなり、収穫早々に新米に頼らざるを得ない状況になっていました。卸売業者には供給責任があるので、どれだけ高くても買わざるをえません。それが売り手の言い値が通る流れを作ってしまい、さらなる高値を呼んでいきました」

2024年8月のコメ不足 Ⓒ時事通信社

 この役員が言うように、卸売業者などが少量の取引をする「スポット価格」は、24年産が出始めると急騰していった。取引会を主催するクリスタルライスが1月16日に開いたそれでは、上場平均価格(加重平均、税抜)が4万6417円と、前年同期比で284%となった。ただし、私が入手したこの取引会の落札結果の一覧表によると、じつは最高値は5万円を超えていた。取引会の関係者によれば、大台にのったことを主催者も落札者も表沙汰にはしたくなかったそうだ。相場に与える影響が大きいため、顰蹙を買うことを心配したという。いずれにせよ、これほどの高値でも新米は切実に必要とされたのである。