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「ドイツから帰国して、“カミングアウトしたい”が爆発した」女子サッカー・下山田志帆選手インタビュー

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――前者は「存在を認識せず、特別視する例」、後者は「存在を認めながらも、特別視しない」例と言えそうです。

下山田 その通りだと思います。誰かと冗談を言い合う際は、相手とどれくらい信頼関係があるかとか、何を言えば嫌がられそうで、何を言えば楽しんでくれそうか、相手がLGBTQかどうか関係なく考えますよね。当事者はそういった「当たり前」を求めているということじゃないでしょうか。

 

「移動時のスカートとパンプスがつらい」

――制度上の問題では、どういったことへの指摘がありましたか。

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下山田 既存の制度の改善は、特にトランスジェンダーの選手のニーズが強いと感じます。

 まず挙がったのが、服装規定がつらい、ということ。女性アスリートの場合、移動する際はスカートのスーツにパンプス、と決まっている場合が多いんですが、そういった服装を強制されるのがしんどいという声や、ことさらに男らしさや女らしさを強調するユニフォームを疑問視する声が挙がりました。

 思い返すと、自分もスカートやパンプスには違和感があったんですが、公に不満を表明するのはセクシャリティをフルオープンにするのと同義のような気がしていて、チーム内でしかカミングアウトしていなかった当時は何も言えなかったです。

 

――規定の服装に、ニュートラルな選択肢が増えるといいですよね。

下山田 そうですね。ほかには、合宿でのお風呂や、更衣室の問題。お風呂や更衣室が一緒なのが嫌だという当事者もいて、そういうニーズのある当事者がいると認識しているチームでは、お風呂の時間をずらしたりして工夫していることも多いようでした。

 選手を引退後、性別適合手術を受けるアスリートも多いです。そうしたアスリートへのサポートもあったほうがいいのではないか、という意見もありました。

なぜ日本では、LGBTQアスリートが可視化されないのか

――下山田さんの調査の中だけでも、LGBTQアスリートはたくさんいました。世界的な動きを見ると、2014年に五輪憲章に「性的指向による差別の禁止」が明記され、リオデジャネイロ五輪には少なくとも41人のLGBTQアスリートが参加。その一方で、なぜ日本では、LGBTQアスリートはこんなにも可視化されていないのでしょう。

下山田 まず、大きな社会状況があると思います。まだまだLGBTQを特別視する風潮がありますし、婚姻など社会制度の面でも不備がある。あとは、スポーツ界ではカミングアウトしている人があまりにいないので、何が起こるかわからない、というのがあると思いますね。