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特集
芥川賞直木賞 作家の素顔 受賞者、候補者、選考委員。それぞれのドラマ

山内 宏泰
2017/02/07

作家・冲方丁「待ち会」を読者のエンターテインメントに 

前代未聞のオープンな「待ち会」ルポ

 人呼んで、「待ち会」。

 年に2回、芥川賞と直木賞が発表される夜に、各地で繰り広げられているものである。

 両賞は選考会で受賞作品が決まる。夕刻から夜にかけて決定し、その後すぐに帝国ホテルで受賞会見が行なわれる手筈となっている。そこでそれぞれの候補者は、会見場に駆けつけられる範囲の任意の場所で、主催者からの一報を待つのが習わし。

 独りきりで待ってもいいのだけれど、たいていはたくさんの人に囲まれながら待つことになる。各出版社の担当編集者が集い、日も暮れる時間なので、飲みながら待つというのが定番だ。

前代未聞のオープンな「待ち会」

 そこに一石を投じた作家がひとり。『十二人の死にたい子どもたち』で、今回の第156回直木賞候補となった冲方丁さん。一風変わった待ち会を敢行するというので、会場となる上野駅近くの店へお邪魔した。

会場の近くに飾られていた看板

 入口に立つと、いきなり大きな看板が。冲方さんの顔写真入りで、

「冲方丁『十二人の死にたい子供たち』 前代未聞!? 直木賞待ち会サミット&総選挙の結果発表するよ!」

 と大書してある。ずいぶんフランクで、なんだか楽しそう。編集者たちがそわそわしながら、緊張する作家を取り囲んで……、といった待ち会のイメージとはかけ離れている。

 それもそのはず、冲方さんの待ち会は、読者、ファンの参加を募って行なわれることとなったのだ。告知が直前だったにもかかわらず、数十名が食事やドリンク付きのチケットを買い求め、会場へ足を運んだ。

 フットワーク軽くこのようなイベントができたのは、もともと冲方さん、担当編集者たちと「冲方サミット」なる会を結成しており、定期的にファンイベントを開いてきたから。どのみちサミットメンバーが集まって結果を待つのなら、読者のみなさんとともにワイワイやりながらにしようと話がまとまったのだった。

「ドキドキの時間を共有したい」

 17時30分に会はスタート。客席はすでに、ビールのグラスを傾けたりしながら待つファンで埋まっている。壇上にまずは、サミットメンバーの編集者たちが上がり、冲方さんを呼び込む。

「みなさんとドキドキした時間を過ごしたい」と語る冲方さん。

 グレーのスーツを着込んだ冲方さんが、リラックスした笑顔で颯爽と登場した。席に着くとスマホを取り出し、よく見える位置に置く。

「この電話に知らせがかかってきますから」

ファンに見えるよう候補作の隣にスマホを置く

 そう、芥川賞・直木賞の受賞か否かの連絡は、指定の連絡先へ直接入る。受賞となればすぐに会見場へ向かわねばならないので、主役が中座することになる旨の説明が編集者からなされるも、これは喜ばしいことなので、会場に詰めかけた全員がもちろん納得して同意。

「では。みなさんとドキドキした時間を過ごしたいです」と、冲方さんの発声で乾杯をした。

 冲方さんは以前にも『天地明察』で直木賞候補になっており、その際は関係者とともに待ち会をしたのだそう。今回は読者の方と過ごしたいと考え、この場を設けたとみずから丁寧に説明する。

 読者とともに知らせを待った作家など、これまでにいなかったんじゃないかと、編集者から指摘が入った。けれど考えてみれば、小説は読者のために書かれるのだし、新しい作品を書き継ぎ、それが直木賞候補になるというのも読者の支持があってこそ。待ち時間を読者と過ごすのは、至極まっとうなかたちに思える。

ファンと和やかに乾杯

 その証左に、今ここに流れている時間はずいぶん和やか、かつ親密なもので、ファンも冲方さんもたいそう幸せそう。もちろん知らせを待つご本人の内心は、大きく揺れ動いているのだろうけれど。

ファンイベントとして大いに盛り上がる

 受賞作が決定するのは、通常だと概ね19時前後。まだ時間があるので、そもそも直木賞って何? 芥川賞とはどう違う? 誰が選考して、今回の候補作にはどんなものがあるのか? 皆でおさらいをしようと、手際よくサミットメンバーの編集者が解説をする。ひと通り説明を聞くと、やっぱり大きくて影響力のある賞だと再確認する思い。それを受賞するかどうかがまもなく目の前で決まるのだと気づいて、会場の緊張感が少し高まる。

 でもまだ、19時までには少し余裕がある。そこで、「総選挙」の結果発表をすることに。これから冲方さんに頼みたい企画を編集者たちがプレゼンし、実現してほしいものをファン投票する「総選挙」が、しばらく前からネット上の冲方ファン・コミュニティで展開されていた。その結果を、改めて冲方さんとともにチェックし、実現可能性を検討しようという。

 自衛隊体験ルポ、焼肉食べ歩き、冲方さんが秘湯に浸かる様子を激写する、人気漫画家と読み切りファンタジー作品をつくる……。名案奇案が続出するも、

「できることなら全部実現しましょうか」

 と、すべてを受け止めようとする冲方さん。会場は、通常のファンイベントとしても、大いに盛り上がりを見せるのだった。

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