2月14日、東芝は2016年4~12月期の連結決算と、昨年末に「数千億円規模」と発表していた米国原発建設子会社、CB&Iストーン&ウェブスター(S&W)の減損損失の確定金額を発表する予定だった。

 事前の報道で損失額は7000億円規模とされ、12月期には一時的に、事実上の倒産を意味する債務超過に陥る。東芝は2017年3月末までにこの状態を解消するため、唯一最大の優良事業である半導体事業を分社化し、その株式の一部を他社に売却する。これによって2000億円〜4000億円を調達し、債務超過を免れる算段だ。

 これは「東芝解体」を意味する。

 2月14日は、創業113年の名門の消滅が決まる――。

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「血のバレンタインデー」を迎えた19万人の大企業の行く末をひと目見ようと、報道陣は会見場に詰め寄せた。

会見場となった東芝本社 ©大西康之

午後12時13分
 報道陣に東芝広報から一通のメールが届く。

【東芝】2016年度第3四半期の決算に関するお知らせ
 2016年度第3四半期の決算を、本日公表することをお知らせしておりましたが、本日12時時点では開示できておりませんことを、お知らせします。

 決算の数字がまとまらないのである。おそらく監査法人と揉めているのだろう。東芝の監査法人は2016年度第1四半期から、PwCあらた監査法人に代わっている。東芝の監査法人は永年、アーンスト・アンド・ヤング(EY)グループの新日本監査法人だったが、2015年春に発覚した粉飾決算を見逃したため、東芝が「解約」。PwCあらたが引き受けることになった。
 
 PwCが用心深くなるのは無理もない。東芝は明らかになっているだけで、8年以上に渡り、監査法人を欺いて(あるいは恫喝して)総額2306億円もの利益を水増ししてきた前科者である。それがわかっていながら、粉飾を見逃したのでは世界四大監査法人の看板に傷がつく。

 だがPwCはまんまと騙された。

 2016年12月27日、東芝は突如「S&Wで数千億円規模の減損損失が発生する見込み」と発表した。粉飾が発覚してから生まれ変わったはずの東芝は、まだ「巨大な闇」を隠していた。念には念を入れたはずのPwCは、2016年度第1、第2四半期決算でそれに気づかず(あるいは気づいていたが開示させるには至らず)、決算報告に判をついてしまったのだ。

 PwCの担当者が逆上したことは想像に難くない。そして第3四半期。おそらくは、依然として損を小出しにしようとする東芝に対し、PwCは氷のような冷たさで対峙しているのだろう。

午後2時59分
 本来ならあと1分で記者会見場が開場されるタイミングで2通目のメールが届く。

【東芝】第178期第3四半期報告書の提出期限延長に関する承認申請書提出に関するお知らせ

 下記の通り一部当社の検証手続き及び独立監査人によるレビュー手続きが完全には終了しておりません。

 ニュースリリースには爆弾が潜んでいた。

 2017年1月8日及び1月19日に当社グループ会社であるウェスチングハウスによるCB&Iストーン&ウェブスター社の買収に伴う取得価格分配手続きの過程において内部統制の不備を示唆する内部通報がありました。

 2017年1月28日にウェスチングハウスの経営幹部から(米大手法律事務所)K&L Gatesに対し、ウェスチングハウス経営者による不適切なプレッシャーの存在を懸念する指摘があり(中略)監査委員会としては経営者による内部統制の無効化があった場合には四半期連結決算財務諸表に影響を及ぼす可能性があると判断しました。

 このプレッシャーがウェスチングハウス経営者から誰に対するものだったかは、現時点で、明らかにされていないが、東芝における「チャレンジ」が子会社のウェスチングハウスでも行われていたということである。

午後3時 東芝本社1階ロビー
 記者会見の場所取りに訪れた報道陣でごったがえすロビー。背後の大型液晶ディスプレーには「東芝決算延期を受け、東証株価下落」のニュースが流れる。

報道陣でごった返すロビー ©大西康之

 駆けつけた広報担当者が大声で叫ぶ。

 「会見が開けるかどうか、まだわかりませんが、とりあえず39階の会見場にご案内しますので、そこで待機願います」

 どよめく報道陣。1社ずつ、受付を済ませエレベーターに乗り込む。

始まらない会見 ©大西康之

午後4時20分
 定刻を20分過ぎたが会見は未だ始まらず。報道陣も手ぶらでは帰れない。カメラの前でアナウンサーたちが連呼する。
 
「本来なら会見が始まっている時間ですが、まだ社長の姿はありません」

 どうなる東芝。どうするメディア。このままでは報道陣が暴れ出し、「血のバレンタイン」が別の意味になるかもしれない。

午後5時30分 
 東芝が発表資料をネットにアップ。

 驚愕のリストラ策が明らかになった。数字はまだ確定していないが、現時点で
「S&Wののれん減損額(営業損益ベース)は7125億円」これにより2017年3月末時点の株主資本は「1500億円のマイナス」になるが資本対策により純資産は「1100億円」のプラスになる。

 驚愕の事実は資料の26ページ目にひっそりと書いてあった。

「メモリ事業 今後のさらなる成長に必要な経営資源を確保し、併せて当社グループの財務体質を強化するため、マジョリティ譲渡を含む外部資本導入を検討

 半導体事業の事実上の売却である。原発事業の責任者である志賀重範会長は15日付で辞任する。

 「東芝解体」は決定的になった。