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白石 あづさ
2017/02/23

おうちでワニごはん! 爬虫類のアイツの気になるお味

作ってみよう、シッポのしゃぶしゃぶ

ワニは世界三大美肉です

「鏡よ、鏡よ、鏡さん、この世で一番、おいしいお肉は何ですか?」。もし私が魔法の国の鏡であったなら、きっと「アルマジロの背肉にトナカイの太もも、そしてワニのシッポであろう」と、うっかり3つも答えてしまうだろう。どれが一番か決められないのは、それぞれ旨みが違うからだ。

ワニ肉は美味しい!? ©白石あづさ

 豚の角煮のようにこってりとしたアルマジロのシチュー、霜降り牛肉のようにジューシーなトナカイのカルパッチョ、たんぱくな白身魚とチキンの旨みが凝縮したワニの肉。世界各地でいろいろな肉を食べてきたが、この3つが最高にうまかった。ああ、思い出せばお腹が、ぐう、と鳴る。

「こら鏡! どれも日本で食べられないじゃないか」と憤慨して鏡を割ろうとしたアナタ、ちょっと待ってほしい。確かにアルマジロの肉は輸入されておらず、トナカイを扱うレストランも東京にはあると聞くが高嶺の花。しかし、ワニ肉は日本の通販でも売っていて簡単に手にはいるのだ。そこで今回は、私が勝手に決めた世界三大美肉のひとつ、ワニ肉にはどんな特徴があり、どう食べたらおいしいのかご紹介したい。

ワニで美肌、健康、成績アップ?

 私がはじめて野生のワニを見たのは、夜のアマゾン川。地元のおじさんに船に乗せてもらい、川べりをスーッと流れていくと、水面がピカピカと光っている。

「おじさん、あれ蛍かしら?」

「ワニの目だよ。あいつはうまいんだ」

「それなら一匹つかまえてよ!」

「えー!? 噛まれると指を持っていかれるのさ、セニョーラ!」

 体力温存のため、ワニはほとんど動かないが、一度、狙いをさだめると一瞬のうちに相手に飛びつき、体をひねって肉を食いちぎるらしい。人でも普段はおとなしいのに、切れるとちょっと怖い人がいるけれど、そんな感じかしら?

 しかし、「お、あいつなら捕まえられそうだ!」とおじさんが、水のなかに素早く手を突っ込んで捕まえたのは、チワワくらいの小さなワニ。これでは食べられる身も少ないので、お母さんの元に帰してあげようと川に戻したのであった。

日向ぼっこするワニ ©白石あづさ

 アマゾンで食べ損ねたものの、帰国後、静岡にある日本初のワニ農場(バナナワニ園ではない)を取材に訪れることになった。

 なぜ普通の農家でいきなりワニ農場を始めたのか聞いてみると、皮をはいでザクザク儲けようとしたわけではなく、とても深い話であった。おじさん曰く、「昔は卵を産まなくなったニワトリも食べていたんだけど、飽食の今は硬いからといって捨てられてしまう。牛や豚を育てるには大量の水や飼料が必要で地球の環境にいいとは言えないでしょう。そこで、鶏を食べてくれて地球に優しい、それでいて手間がかからない家畜はないか?と考えたときに、ワニだったのです」。

 環境に優しいオルタナティブフードとして、ダチョウやクジラの名前はよく聞くが、日本初のワニ飼育は試行錯誤の連続で大変だったらしい。檻の中には、ムチムチと太った国産ワニたちが連なって日向ぼっこをしていた。

 見学後、「せっかくだから」と、農場のおじさんが、ワニランチをご馳走してくれるという。おお、ワニのステーキかしら?と期待したが、出てきたのはワニカレー。なんだ、ただのカレーかと思いきや、腹でもシッポでもなく、背中のゴツゴツの部分をたっぷり煮込んだ試作品だという。普通でよかったのに……爬虫類っぽい見た目にドン引きしつつも、思い切って口にすると軟骨のようにゴリゴリして弾力があり、野性味あふれる肉であった。

自宅で作ってみたワニの尻尾カレー ©白石あづさ

 ほとんど動かずフンも少ないワニは飼いやすいだけではなく、DHAが豊富で低カロリー、高たんぱく。栄養が豊かで美容にも健康にもいいらしい。また体内で抗生物質を作ることができる最強の生物らしく、海外では難病の特効薬として研究が進められているそうだ。すごい肉じゃないか。

「息子にワニ肉を食べさせていたら、どんどん成績が良くなったのです」とおじさん。♪さかな、さかな、さかな~、さかなを食べると~というあの歌を思い出してしまうが、受験生にワニが売れる日がくるかもしれない。

 おもしろいことに、ワニはエサで味がガラリと変わるそうで、ニワトリを食べさせれば淡泊な味に、川魚を与えれば生臭くなるそうだ。とある国でニワトリが病気で死んでしまい、代わりに魚を与えた年のワニは評判が悪かったそう。

旅先のタイではワニ釣りに挑戦。ワニは余剰な鶏肉も食べてくれる ©白石あづさ

ワニ料理、いろいろやってみたが

 ワニ肉と一口に言っても、部位によって特徴が違う。私が食べた背中のゴツゴツの部分は軟骨のようだと先ほどお話ししたが、下顎とくっついているワニの舌は柔らかくふわふわで、脇腹はやや味が濃く、身がぎっしり詰まっているシッポは淡泊だ。

背中のゴツゴツした部分は、軟骨のような味 ©白石あづさ

 おじさんと出会って以来、ワニ料理を作り続けてきた。とはいえ、料理人ではないので、あくまで素人の「おうちでワニごはん」。7、8年前は、クックパッドに「ワニ」と入れても検索に何も出てこなかったので手あたり次第にやってみるしかなかった。現在では、何件もヒットするので、だいぶワニも一部の家庭に普及してきたのだろう。

 炊き込みご飯やワニの味噌汁、焼き鳥ならぬ焼きワニ、ワニのから揚げ、ワニカレー、タンドリーワニなど作ってみたが6割は失敗。ワニのゴツゴツも入れた炊き込みご飯は爬虫類臭満載で下処理が必要なことを学んだし、しっぽの肉でトライしたタンドリーワニは、ニワトリと同じようにはいかず、何度やってみても水分が抜けてしまう。

 紆余曲折の末、一番、ワニの魅力を引き出せる簡単でおいしい料理はワニしゃぶだと分かった。

ワニのゴツゴツで作ったから揚げは失敗 ©白石あづさ
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