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冨山 和彦
2017/03/29

日本企業はいかにAIで儲けるべきか。“モノづくり日本”に勝機あり

企業再生のプロによる“AI時代の経営論”(1)

『AI経営で会社は甦る』(冨山和彦 著)

 AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)、ビッグデータ利用など、現在進行中の“AI革命”によって「産業構造」「稼ぐ仕組み」が大きくかわりつつある。

 そんななか、モノづくりを得意としてきた日本企業が、再び優位に立てるチャンスは大いにあると私は睨んでいる。日本復活の勝利のシナリオを“AI時代の経営”という観点から描いたのが、このたび上梓した『AI経営で会社は甦る』である。

 今を遡ること1990年代以降、デジタル界で勃発した“インターネット・モバイル革命”において、モノづくり日本は、新興アメリカ勢に大敗を喫した。iPod、iPhoneを引っさげてあらわれたアップルにソニーがやられ、日本のエレクトロニクスメーカーやテレビ事業や液晶事業も一敗地にまみれた。同時期、グーグルやアマゾンといったベンチャー企業がメガプラットフォーマーとして台頭してきたのも周知のとおりだ。

 この“インターネット・モバイル革命”はアルゴリズムが支配するバーチャルなサイバー空間で完結する性質ゆえ、グーグルのラリー・ペイジとセルゲイ・ブリン、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグのような一握りの天才が世界を変えることが可能だったのだ。逆に言えば、集団でコツコツとすりあわせてのモノづくりを得意とする日本の企業が、最も苦手とする領域だったとも言える。

グーグル、アップルが自動車を作れない理由

「インターネット・モバイル革命で日本はアメリカに大敗を喫した。しかしモノづくりの観点からすると、今は復活のチャンスにある」と力説する冨山和彦氏。

 ところがAI、IoT時代となり、バーチャルの世界にモノが絡んでくるにつれて、今度はアメリカ勢の優位は揺らぎはじめている。

 自動運転がよい例である。アルゴリズムで解決できるAIの部分については、確かにグーグルが先行できたかもしれない。けれども、AIに制御されるモノを実用化するには、ハード面の耐久性が求められる。すぐに壊れて使い物にならないのでは困るのだ。

 もし人命に関わる壊れ方などしようものなら、天文学的な金額の損害賠償を請求されるだろう。ハードの問題に直面したとたん、グーグルは壁にぶち当たってしまうのだ。同じような理由で、アップルが自動運転から撤退モードである、との報道も記憶に新しい。

 自動車のエンジンを回すためには、何千度もの熱を制御しなければならない。重大事故が起きないようにミクロン単位で、百万単位を量産する部品の精度を管理する必要がある。そこでは、材料レベルの生産技術のところまでさかのぼった、ノウハウのかたまりのような経験技術の蓄積が求められている。

米国のトップAI研究者がトヨタに電撃移籍

 それゆえ、日本の機械系メーカーや自動車メーカー、材料系メーカーなどに十分な勝機が出てくるのである。事実、ソフトとハードのすり合わせが必要なフェーズに入った現在、日本企業に対する注目度は高まっている。

 たとえば、DARPA(米国防高等研究計画局)のトップAI研究者で米国の至宝とも言われるギル・プラットが、トヨタの人工知能研究所(TRI)へ電撃移籍を果たしている。下馬評的には、彼がDARPAの任期を終えたら、グーグルロボットに行くとみんな思っていた。ところが、彼が選んだのはトヨタだったのである。

 アメリカの超優秀なトップエンジニアたちの目には、日本企業のきわめて洗練され、かつ実用的でロバスト(頑健)なハードウェアテクノロジーが魅力的に映っている。

 米国ベンチャー企業のハードウェアの担い先としては、中国企業を思い浮かべる人も多いかも知れない。事実、アップル登場以降、設計やデザインは米国で、製造は中国や台湾のEMS(電子機器の受託生産)という組み合わせが広がっていた。しかし、お互いに、よく言えば個人主義、悪く言えば自分勝手で、ごく短期間で区切って貢献と成果を評価するのがフェアなやり方だと思っている。それゆえ、シリコンバレーのソフト会社がハード的解決を中国企業に振っても、じつは似た者同士で相互補完的にはなりにくいことが多い。むしろ、長期的な貢献と成果を重視する日本企業を相手に選んだほうが、相互補完性は高いのである。

企業再生のプロによる“AI時代の経営論”(2)に続く

冨山和彦(とやま・かずひこ)

1960年生まれ。IGPI代表取締役CEO。オムロン社外取締役、パナソニック社外取締役。企業再生の第一人者としてカネボウ、JALはじめ多数の企業を建て直してきた。AIにも精通し、人工知能のトップ研究者・松尾豊東大准教授とは2012年よりビジネスパートナー。

AI経営で会社は甦る

冨山 和彦(著)

文藝春秋
2017年3月29日 発売

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