文春オンライン

最初から美容外科医になろうなんて思ってるヤツはバカ──高須克弥院長インタビュー

高須院長に美容整形のことをマジメに聞いてみた。<第2回>

2017/04/17
note

「美容外科医は美容院と同じ。テクニックよりも美的センスが必要」と話す高須克弥院長。とはいえ、健康な体にメスや針を入れる医療行為であるだけに、安全対策も不可欠だ。ピコ太郎とのCM共演も話題の高須院長だが、CMや広告が派手な美容外科の中にはお金儲け優先のところもありそうだ。「週刊文春」や「文春オンライン」で医療記事を執筆しているジャーナリスト、鳥集徹さんが「かっちゃんに聞く」第2弾は、どうすれば安心して後悔のない美容外科手術を受けられるのか、失敗しない医者選びのポイントを聞いてみた。

結婚後の優雅なお小遣い稼ぎのために美容外科になりたがる女医たち

鳥集 ヘリコプターに乗ってドバイで富豪たちと談笑するCMの姿を見て、高須院長みたいな美容外科医になりたいと憧れる人もいると思いますが、医学部を卒業してから、どういうコースをたどればいいんですか?

高須 あのね、僕はよく、「美容外科医になんてなるな」って言ってるの。結果的に美容外科医になったやつはいいけど、最初から何もないのに美容外科医を目指すのはダメ。医者は、世の中のためになることをやらなくちゃいけない。美容整形ってデザートみたいなもの。医者全員がケーキショップ目指したらダメでしょ。メインを作れるようになったらデザートにもチャレンジしてみる。それでたまたま腕があっていいスイーツができるようになったら、それで名を馳せてもいい。でも、はじめっからケーキばっかり狙ってるなんてバカじゃないかと思うね。だから僕に憧れて美容外科医になりたいなんていうやつは叩いてやりますよ。

ADVERTISEMENT

鳥集 研修医のうちから「僕は美容外科医になるんだ」なんて言ってる医者は、バカってことですね(笑)。

高須 バカです! 

「僕に憧れて美容外科医になりたいなんてやつは叩いてやります」©三宅史郎/文藝春秋

鳥集 美容外科医になるにしても、世の中の人の役に立つ仕事がしたいという志を持ちながら、日々研鑽していくことが大事ということでしょうか。

高須 美容外科は治療医学や予防医学とはまったく違う医学なの。せっかくリハビリの学校行って、理学療法士になったのに、スポーツクラブでトレーナーとして働く人がいますよね。それって、すごく効率が悪い。身体が不自由な人が世の中にはいっぱいいるんだから、リハビリの仕事をしてほしい。それと同じで、美容外科も必要なんですよ。でも、たくさんいちゃいかんの。

 最近ね、皮膚科あがりの女性の美容外科医ってすごく成り手が多いの。でも、動機が不純。嫁入り道具代わりに医師免許をとって、そこそこの亭主を見つけたら、高給を取りながら自分の好きに休めるように片手間にやりたい。そんな生活をするのに、美容外科はぴったりだと思われている。

鳥集 救急に呼ばれることも、当直もありませんよね。

高須 ないない。でも、救急のトレーニングしていなかったら、手術の最中に命に関わる緊急事態があったときどうしようもないの! そもそも、美容外科の死亡事故ってけっこう多いのよ。なんでこんなことで死ぬの?っていうバカみたいなことが起こってる。

麻酔医の人件費をケチってるクリニックで大手術をやったら危険だよ

高須 美容整形の医療事故の賠償は、日本美容外科医師会の保険でやってるんです。形成外科系は、日本美容医療協会の保険です。なぜかというと事故が多すぎて、民間の医師賠償責任保険がかけられなくなって、自分たちで共済保険を作って賠償してるわけ。実際に大きい事故があるのよ。それを公表したらその先生たち食ってけなくなるでしょ。でも、そういう医者はまた事故を起こしたりする。だから医療事故のリピーターはもう保険に入れないようにしようって言ってるの。

鳥集 ひどい話ですね。我々患者側も、美容外科手術を受ける際には、安全面に十分注意しなければいけませんね。医療事故に遭わないためには、なにが大事なんでしょうか。

高須 麻酔科医がいればいいんですよ。

鳥集 高須クリニックには常勤していますか?

高須 常勤はしていません。でも、命に関わりそうな手術の日には、麻酔科医に来てもらってます。でも、麻酔科医がいればいいというものでもないんです。実は、最近、麻酔の仕事だけでは食っていけないから、美容外科に手を出す麻酔科医もいて、それが結構危ない。麻酔科医だからいざというとき大丈夫って言うんだけど、手術を一生懸命やってると、容態が急変したことに気がつかないから。気がついたときは手遅れの状態になってる。

鳥集 今年2月27日にも、名古屋市のあるクリニックで、豊胸手術を受けていた32歳の女性が意識不明になり、搬送先の病院で死亡する事故がありました。報道によると、手術は局所麻酔で行われ、医師と看護師2人で担当していたそうです。

高須 豊胸手術とか、曲がった鼻をまっすぐにするとか、骨を切ったりするような手術はふつう全身麻酔を使いますから、麻酔科医がいないところでは、基本的にやっちゃダメです。昔、産婦人科でも、子どもを堕ろすときに静脈麻酔(静脈から点滴で全身麻酔をかける方法)をやっていて、気がついたら呼吸が止まってたという事故が全国的にたくさんありました。名古屋の事故も、医者が目を離したすきに呼吸が止まったんだろうね。執刀してる医者は、手術やってるときって集中してるから他のものが見えないのよ。麻酔科医がいれば、血圧や脈拍や体温など生命を維持することだけに集中してるから大丈夫なの。

「ほとんどのクリニックは麻酔科医なんていませんよ」©三宅史郎/文藝春秋

鳥集 逆にいうと、麻酔科医がいないのに豊胸手術なんかをやってしまう美容外科クリニックがあるんですか?

高須 ほとんどのクリニックは麻酔科医なんかいませんよ。人件費がかかるもん。手術費より麻酔科医の人件費のほうが高い可能性もあるから。麻酔科医をケチって利益を出そうとする。資金繰りがまずいところはどこも危ないですよ。ナースひとりしか雇わないとかね。でも、全身に影響のある手術は、麻酔科医のいないところではやっちゃダメなの。死んでるところは、何人も死んでるもんね。基本的に危ないところは安いよね。