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七月 隆文
2017/04/16

「あの花」「ここさけ」を生んだ脚本家・岡田麿里が明かす“不登校の日々”

七月隆文が『学校へ行けなかった私が 「あの花」「ここさけ」を書くまで』を読む

『学校へ行けなかった私が「あの花」「ここさけ」を書くまで』(岡田麿里 著)

『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』『心が叫びたがってるんだ。』

 普段アニメを観ない方も、このタイトルに聞き覚えがある方は多いのではないだろうか。

 映画の興行収入がともに十億を超え“聖地巡礼アニメ”として大きな話題になった両作。本書はそれらを手がけたアニメ界のカリスマ脚本家、岡田麿里さんの初の自伝となっている。

 書かれているのは成功者のサクセスストーリーとはほど遠い、闘病手記とでも言うべき小学校時代からの困難な自意識との闘い。

 なんと豊かで苦しい心か。

 私が鼻水垂らしていたような頃に周囲との不調和に直面し、友達を冷静に観察評価し、自覚的に自らの「キャラ設定」にあえぎ、結果挫折し、不登校になる。

 すでに作品を知っている私としては「そういうことだったのか」と腑に落ちた。本書は自伝であると同時に両作の裏設定が書かれた濃密な設定資料である。

 重苦しいのに引き込まれる。ついページをめくってしまう。これは岡田さんのアニメの印象そのものだ。舐めるとピリッと苦くて、えぐみがある。でも「苦い苦い」と舐めているうち気づけば瓶が空いている。そんな薄い毒の魅力。

 面白いのは、本文のあちこちから著者の“天然っぽい”部分がぽろぽろこぼれているところ。不登校の二年半を「たった二年半」とさらりと書いたり、教習所で耳栓を付けた理由も大したことがないかのように流されている(ように見える)。上京する列車で隣になったおじさんが居心地悪そうにしてコーヒーを飲まない理由を、「甘いのが苦手なのかもしれない」と考えたときは「鈍いよ!」とツッコミを入れてしまった。

 上京した彼女はシナリオライターという職業に出会い「アニメのライターになりたい」と道を定める。そして「登校拒否児は果たして、魅力的なキャラクターとして成立するのだろうか?」と、自分自身に基づくテーマに挑み、ヒット作『あの花』が生まれた。

 このあたりでは内容も軽快になり、前半の重苦しさとともに彼女の半生のトレンドを追体験した感覚になれる。特に『あの花』スタッフが秩父にある岡田さんの実家を訪問したくだりはコメディでありつつ感動的なシーン。なのにスタッフを招いた理由を「母親に見せつけたかったのだ」。ここでその言い方を選ぶのかと苦笑した。さすがだ。

 本書で彼女が美しいと感じた瞬間には、車窓や扉といった「額縁」の存在が記されている。次に飾られるのはどんな風景だろうかと読了し思いを馳せた。

おかだまり/1976年、埼玉県秩父市生まれ。脚本家。97年、Vシネマの脚本でデビュー。『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(11)、『心が叫びたがってるんだ。』(15)などの作品が大きな話題を呼ぶ。

ななつきたかふみ/大阪府生まれ。小説家。著書に、大ヒット作『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』、『天使は奇跡を希う』など。

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