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菅野 朋子
2017/04/14

韓国大統領選、安哲秀の支持率が急伸している背景

安哲秀VS文在寅、先の読めない因縁の対決

 文在寅40%、安哲秀37%(14日、韓国ギャラップ世論調査)。

 朴槿恵前大統領の弾劾罷免により5月9日に行われることになった韓国大統領選挙(以下、大統領選)が激しいつばぜり合いになっている。

 これまで、「共に民主党」の文在寅候補(64)が圧倒的な支持率で他候補を大きく引き離していたが、4日に安哲秀・「国民の党」元共同代表(55)が大統領選の候補者に確定すると、形勢は一転。

 5人の候補者が出揃った4日直後に行われた世論調査(ソウル新聞とニュース専門テレビのYTNとの共同)では、保守派の候補者が不出馬となり両候補の一騎打ちとなった場合、安候補が47.0%、文候補40.8%と逆転するという結果が出て騒然となった。

「文在寅は焦っているんじゃないかな。大統領選挙はこうじゃないと。韓国人はこういうダイナミックな動きが好きなんだよ。まだ、誰に票を投じるか決めていないけど、これからじっくり見させてもらうよ」(40代の男性、タクシー運転手)

アンチ文の保守票が流れた

左が安哲秀氏、右が文在寅氏 ©共同通信社

 各党での候補者選びが確定していない3月第4週の世論調査(韓国ギャラップ)では、文候補31%に対し、安候補は10%。誰もが今の状況を予想していなかった。しかし、その1週間後の3月最終週には安候補の支持率は19%と9ポイントアップし、さらに4月第1週には16ポイントアップの35%となり、文候補との差を3ポイント差に縮めた。

 こうした現象に初めは半信半疑の雰囲気が漂っていたが、その後も接戦が続いている。

 韓国紙の記者が言う。

「安候補の躍進の背景には大きく2つのことがある。

『共に民主党』内の候補者選びで次点となった中道寄りの安煕正忠清南道知事の票の半分以上が安哲秀に流れていること。そして、保守派の有力候補者が不在の中、文候補を絶対に大統領にしたくないというアンチ文の保守票が安候補に吸収されていることが大きい」

新しい対立軸が生まれた

 韓国の選挙といえば、「保守」VS「進歩」という対立構造が定番だったが、今回の選挙は「進歩」VS「中道に近い進歩」と様相がまったく異なる。  

 保守派の朴前大統領が崔順実事件から弾劾訴追となり、罷免される過程で蔓延した国民の保守派への嫌気感、そして、潘基文前国連事務総長の2月初めの不出馬宣言による保守派の有力候補者不在など、今回の大統領選では保守派の存在感はまったくない。 

 前出の記者が続ける。

「保守派の人々が文候補を嫌う理由は、左派で北朝鮮寄りという点もありますが、それよりも盧武鉉元大統領時代とは同じ人権弁護士仲間であり、青瓦台(大統領府)の秘書室長なども務めた側近中の側近で、自死した盧元大統領の葬儀では葬儀委員長を務めた文候補が、盧元大統領を死に追い詰めた保守派に弔い合戦をするのではないかと危惧しているからです。今までの『保守』vs『進歩』の憎悪の政治はこりごりだという思いが強い」

 “負の歴史”を背負う文候補に対し、2013年に政界入りした安候補にはそうした複雑な政治的背景はまったくない。

ベンチャー起業家からの転身

 安候補は、医師だった時代にコンピュータのウイルス対策ソフトを開発し、ベンチャー起業家に転身。その後は大学教授となり、大学生を中心に若年層から「メンター(師)」と仰がれ絶大な人気を誇った。2011年、ソウル市長補欠選挙で彗星のように現われたが、現在の朴元淳ソウル市長に出馬を譲り、さらに名を挙げて「安哲秀旋風」を巻き起こした。

 この勢いに乗って2012年の大統領選挙にも無所属で出馬し、「古い政治を断ち切る救世主的な存在」(別の記者)として朴前大統領を脅かす存在でもあったが、民主統合党(当時)の文候補からの野党候補の単一化の申し込みを受け入れ、出馬を断念。そして、その翌13年、国会議員となり、政界入りを果たした。

文在寅との因縁

 文候補との因縁は深い。

 政界入り後、党を結成する過程で民主統合党と合流し、「新しい政治民主連合」を立ち上げて文候補と共同代表を務めたが、「独善的な党運営に改革を主張し続けても受け入れられず」(同前)文候補(当時代表)と袂を分かち、1年後には脱党。その2カ月後の昨年2月、「国民の党」を結成した。更に2カ月後の4月の総選挙では38議席を確保し、国民の党を第3党に押し上げ、「政治家としての力を証明した」(同前)といわれている。

 安候補の支持率が急上昇すると文候補側はメディアが意図的に安候補に有利な報道をしているとかみついたが、安候補の快進撃が続くと「ぶっちぎりのトップにあぐらをかいていたため、慌てている様子だ」とはまた別の記者の話。

2012年韓国大統領選にて文在寅氏を支持する安哲秀氏 ©共同通信社

 彼が続ける。

「どちらが勝つかは土壇場まで分かりません。

 文候補は公団に入社した息子に何かしらの便宜を図ったのではないかという疑惑があり、また安候補は娘の財産公開を巡って物議をかもしていました。しかし、安候補は先日、娘の財産を公開した。一方、文候補は疑惑について問いただした記者らに、自身の出身地の訛りを使って『もう止めてくれ』と冗談めかして質問を遮った。朴前大統領の疑惑を徹底追及した人物が自身については口をつぐんだことになり、こうした小さな瑕疵が命取りにもなりうる。

 また、文候補は、さかんに『今回の大統領選はキャンドルデモの民心VS腐敗した既得権勢力』だと語っていますが、二分する考え方はもう古い。安候補に国民が求めているのは旧時代的な保守VS進歩の対決を乗り越えられる希望でもあり、単なる保守票の移動ではないという見方もあります。

 ただ、世論調査の支持率では両候補者が拮抗していますが、『当選の可能性のある人物は誰か』という設問には50%以上が文候補を挙げている。これは、感情を交えない客観的な評価だと分析されていて、これから大統領選までの過程のひとつひとつが票を動かしていくことになり、最後まで読めない」

 文・安両候補とも日本に対しては厳しい立場で、慰安婦問題についても再交渉を掲げている。しかし、安候補は、金大中元大統領と小渕元首相の「日韓パートナーシップ宣言」の理念に深く賛同するとも語っており、交渉の余地が見え隠れする。

 大統領の“風”は果たしてどちらに吹くのか。これからが見物だ。

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