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自分のルールで遊ぶ。写真家・高木こずえの思考回路に目が離せない

25歳で木村伊兵衛賞を撮った写真家の最新個展。

2017/04/15
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 真っ白の壁面に、カラフルな画面が無数に並ぶ。写真が主だけど、なかには絵画も混じっている様子。ともあれ人物の姿や植物、何気ない街や田舎の風景などが一つの画中に混ぜ合わせてあって、そこにデジタル加工で幾何学模様も描かれる。

 

 摩訶不思議なイメージが浮かび上がっていて、それらに囲まれているだけで気分が華やぐ。しばし身を置いていると、この画面はいったい何なのだろう、何が表されているのか、探究心もむらむらと湧いてくる。結果、長い時間をその空間で過ごす羽目になる。つまりは、知らず知らずのうちに作品に夢中になっているということ。

 アートに翻弄されて、どこかに連れ去られてしまうかのよう。そんな体験ができる空間が、東京・東神田のギャラリーαMに生まれている。「鏡と穴−彫刻と写真の界面 vol.1高木こずえ」展だ。

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スナップショットが創作のもと

 高木こずえは、長野県在住のアーティスト。写真を使って制作をすることが多く、『SUZU』『GROUND』『MID』といった写真集も刊行している。

 身近な場所で撮ったスナップショットをもとにして、自身の探究したいことやイメージをビジュアルとしてかたちにするべく、たくさんの写真を組み合わせたり、その上に絵を描いたり、デジタル加工を施していくのが彼女の制作手法。そうして出来上がる画面は、誰の内面にも、深く潜り込んでいったらこんな世界が広がっているんじゃないかと思わせるもの。訳がわからないし、どこか恐ろしさも感じさせるけれど、魅惑的で目が離せなくなるイメージにあふれている。

 

自作を遺跡に見立てて、おもしろさを掘り起こす

 今展で出品されているのは「琵琶島」と題された作品。高木はまず、撮りためたスナップショットをよく眺め、膨大な数の写真を選んでランダムに並べ、重ねていって、大きなコラージュをつくった。それ自体がひとつの作品として成立しているのだけど、細部を見ていくと、偶然横並びになったり重なったりした写真には、一枚ずつ単独で見るときとはまったく異なる見え方とおもしろさが生じていると高木は気づいた。

 約300枚の写真を用いてできた12メートルもある巨大なコラージュには、さまざまな時間や状況が埋め込まれている。そのコラージュを、一つの遺跡としてとらえ、遺跡の中に生じたおもしろいイメージを発掘してみたいと彼女は思った。

 そこで、任意の場所を切り取って一枚の画像として仕立て直してみたり、気に入った絵柄をペインティングにしてみたり、みずから描いたその絵をさらに写真に撮ってみたりした。自分がつくった大きな作品をつぶさに見ながら、新しい魅力を発掘して、解体・再構成していったのが今回の展示作品というわけだ。

 

自分のルールで遊ぶ

 自作のなかに、発掘すべき美しい宝物がまだまだ眠っていると信じられる彼女の強さには驚かされる。かなりの自信家というべきか。けれどこの場合、実際にまた新しい作品群がちゃんと生まれてきているのだから、その自信はちゃんと根拠のあるものだったのだ。

 まずは見目麗しく、色合いの美しさも楽しいから、会場に足を運べばそれだけでもじゅうぶんに楽しめる。が、それだけに留まらない。見惚れているとこれが、アーティストが自分で設定したルールに基づいて、あれこれ探究をした結果なのだということにも気づいて、改めて感嘆する。

 

 あらゆる事物に自分なりのおもしろさを見出し、自由に遊び尽くしてしまう。創造的な何かというのは、そういうところから生まれてくるのだ。これはきっとアートにかぎらず、どんなジャンルにも当てはまることなのでは? などと、会場に身を置いていると考えさせられるのだった。

<撮影:木奥恵三 写真提供:ギャラリーαM>

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