昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

urbansea
2017/04/15

天才たちの14歳 美空ひばり、桜田淳子の「青春と蹉跌」

「週刊文春」4月20日号 最新レビュー

 デビューから12連勝中の棋士・藤井聡太を文春最新号は取材している。題して「14歳藤井聡太棋士に聞いた『コンピューターに勝てますか?』」。14歳といえば、「CATCH UP」欄に登場する浅田真央がジュニアの国際大会ではじめてトリプルアクセルを決めたのも14のときであった。

62歳差の対局を終え、感想戦をする藤井聡太四段(右)と加藤一二三・九段。藤井四段はプロデビューを白星で飾った ©共同通信社

「私に青春ってあったのかな」

 今週号にはたまたま、14歳で芸能事務所の役員になった天才歌手の秘話と、14歳のときに「スター誕生」で番組史上最高得点を叩き出した元アイドルの現在があるので紹介する。

《 私に青春ってあったのかなって思うこともありました。私の青春はこれだった、と言えるものがないんです。でもよく考えると、歌ってきた、そのことが私の青春だったんだなあって 》

 美空ひばりの言葉である。今週号の「美空ひばり 紅白締め出し事件を語る“幻の肉声”」で紹介される、亡くなる前年に行われたインタビューで、美空ひばりは半ば遺言のようにこう振り返るのであった。

12歳のころの美空ひばり ©樋口進/文藝春秋

 なにしろ美空ひばりは早熟である。12歳でレコードデビュー、14歳にして芸能プロダクションの役員に就任しさえする。常人が青春まっただ中の年頃をプロの歌手として生きた。18歳のときに婚約しても、相手のジャズマンがこんなスターを独り占めにするわけにはいかないと身を引いてしまう。ふりかえれば10代の美空ひばりには歌しかなかった。

桐山零と美空ひばり

 公開中の映画「3月のライオン 前編」で、「将棋しかねーんだよ!」と、神木隆之介が演じる桐山零は絶叫する。吉田豪によるインタビューで、原作者の羽海野チカは漫画しかない自分と桐山零とを重ねながら、次のように語る。

「『将棋しかねえんだよ!』って言ってたところから始まって、私が友達を作ったり家族を作ったり、どこまでいけるか」(注) 

 自分自身が悩みそうなことを題材にすれば、漫画を描きながら自分の悩みを思案できると考えた。すなわち桐山零は漫画しかない作者と背中合わせであった。そして将棋(漫画)しかないはずの者が何かを得ていく物語が進んでいく。

神木隆之介 ©志水隆/文藝春秋

 美空ひばりはどうか。

 歌しかない美空ひばりが、精一杯に普通の幸せを掴もうと、結婚したり(しかし離婚する)、家族を大事にしたり(しかし弟は賭博や拳銃の所持などで逮捕を繰り返し、仕舞いには山口組系の暴力団幹部だったことが発覚)すればするほどスキャンダルに呑まれていく。結果、歌手にとって最高の晴れ舞台、「紅白歌合戦」からも締め出されてしまう。

 将棋しかないから始まる「3月のライオン」とは対照的に、歌しかなかったに帰結したのが女王であったのかもしれない。

桜田淳子を再びステージに向かわせるものは何か

 桜田淳子は14歳で文字通りスターとして誕生する。数多の歌手を輩出したオーディション番組「スター誕生」で番組史上最高得点を記録し、鳴り物入りで芸能界に入る。山口百恵、森昌子と共に三人娘と呼ばれ、その活躍は歌にとどまることなく、たとえば「8時だョ!全員集合」で披露する「私ってダメな女ね」が決めゼリフの志村けんとのコントで、井上ひさしなどからコメディエンヌとして賞賛を得る。しかし34歳のとき、統一教会(当時)の信者であると表明、さらには合同結婚式に参加したことで、以降、実質引退状態にある。

左から山口百恵、森昌子、桜田淳子 ©共同通信社

「二重アゴが消えた! 桜田淳子 復帰計画と信仰の十字架」は、桜田淳子が3年4ヶ月ぶりに姿を見せたステージを取材している。「二重アゴが消えた!」と言われると「壮快」「わかさ」かッ! と思ってしまうが健康記事ではなくて、ひさしぶりの舞台で4曲のメドレーを歌った後、中島みゆきのカバー曲「化粧」を披露したという。

 記事には「彼女には三人の子どもがいますが、昨春、長男は大学を卒業、今春は一番下の次女が高校を卒業し、子育てはひと段落しています」とある。美空ひばりがいくら望んでも掴めなかった平穏な幸せを得たのかもしれない。

 くだんの「化粧」の歌い出しは、「化粧なんて どうでもいいと思ってきたけれどせめて今夜だけでも きれいになりたい」であるが、二重アゴなんてどうでもいいと思ってはいられなくなった、そんな本格復帰への覚悟が記事の節々から漂う。普通の幸せを得てもなお、一度脚光を浴びた人間の、あるいは「スタ誕」で最高得点を記録するほどの天性の歌い手の業が、再びステージに向かわせているのか。いずれにせよ、宗教の問題は差し障ったままである。


(注)「別冊クイック・ジャパン 3月のライオンと羽海野チカの世界」