今期のドラマでキムタク主演の「A LIFE」についで視聴率2位なのが「東京タラレバ娘」。週刊文春は「『東京タラレバ娘』原作者が明かす痛い女の元ネタ」で原作者・東村アキコを取材している。

東村アキコ(「週刊文春」2016年1月14日 モノクログラビア「2016 日本を明るくする美女7人」より)©橋本篤/文藝春秋

「東京タラレバ娘」は「『あの時何々してれば』『何々してたら』と仕事や結婚について後悔しつつ、何かにつけては女子会と称して酒を飲む“痛い”アラサー女子の奮闘劇」、吉高由里子が初めての地上波ドラマを任されようとしている脚本家・倫子を演じる。

 この倫子ちゃんについて、先週の週刊文春、林真理子の連載コラム「夜ふけのなわとび」は厳しいことを言っている。こんなチャンスを目の前にしたら女子会の暇なんかなくね?と。さらにこう続ける。「勝負を迎えノルかソルかの状態の女性が、こういうふつうに生きている女性と毎晩のように飲み会はしないでしょ、ということだ」。野心 やチャンス、才能を必要とする脚本家が平凡な人生をおくる者と毎晩会ったりはしないだろうということである。

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  さすが『野心のすすめ』の林真理子、筆一本でのし上がった作家が語る覚悟と洞観である。

小説家の「洞観」を読む

 これで思い出すのが、万城目学「やけどのあと――人気作家の東電株主総会突入記」(文藝春秋・2011年9月号 /『ザ・万字固め』文春文庫に収録)。資産運用のために東京電力の株式を保有していた小説家・万城目学が、福島原発事故から3ヶ月後に開かれた東電株主総会に出席、その模様をレポートしたものである。

 ここで万城目学は、荒れくるう株主総会を仕切る東京電力会長・勝俣恒久、当時71歳の姿をつぎのように書きあらわす。

「私が素直に驚嘆したのは、六時間にわたり、ほぼひとりで怒号がやむことのない荒れる株主総会を差配し続けた、勝俣会長の頭脳と胆力だった。」社会正義とも資本の論理とも違う別の目を、ひとりの老齢の男にむけている。これもまた、小説家の洞観と言える。

 その林真理子、今週の「夜ふけのなわとび」では松方弘樹の死をひきあいに、妻子ある人を愛する覚悟について書いている。松方弘樹の二人目の妻となる仁科亜季子はお嬢様女優にして「お嫁さんにしたい女性ナンバー1」であった。それが松方弘樹と不倫のすえに結婚する。「たとえ親を捨てても彼についていきます」と思いつめた顔でいう彼女は本当に美しく、また妻子ある人を好きになるというのはそれほどの覚悟がいることなのだ、と。

2017年2月9日号 ワイド特集「スクープ第一」より

 そうまでして結婚した仁科亜季子だが、松方弘樹に愛人が出来て離婚する。

 この愛人についての記事が「愛人の鑑! 松方弘樹を看取った山本万里子『女のみち』」。「愛人の鑑」ってのは果たしてホメ言葉なのかどうか微妙であるが、ヤマタクの愛人を発掘するなど、愛人に造詣の深い週刊文春にお墨付きをもらったのである。女の勲章に違いない。

松方弘樹(「週刊文春」2015年12月24日号「阿川佐和子のこの人に会いたい」より) ©山元茂樹/文藝春秋

 記事によれば、山本さんは、略奪愛のため結婚を口にしてはいけないと考え、また晩年の松方弘樹には借金返済などで財産がほとんどなく、それでも寄りそい続けた。これもまた覚悟である。

 死の直前、山本さんが「今までありがとう」と声をかけると、病床の松方弘樹の目から一滴、涙がこぼれたという。いくら文春公認の「愛人の鑑」といえども、「愛したのが妻子あるひとでなかったら」の思いもあったに違いなく、末期の涙は積年のタラレバの思いを洗い流したろうか。