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民進党は「改革」を捨てろ――2020年「日本の姿」

民進党は「改革」を捨てろ――2020年「日本の姿」

2017/05/03

source : 文藝春秋 2016年7月号

genre : ニュース, 政治

note

 では、民進党は、何をすべきだろうか。私は4つのカギがあると考える。

国民に近い言葉で長期的政策を発信

 第1に、目を向ける数年先の施策が長期的にどのような意味を持つかを語ることである。これこそ、政治構想の要諦だ。そのための言葉を紡ぎ出さなければならない。

 現政権の「アベノミクス」であれ、「一億総活躍社会」であれ、そのときどきに真新しさを印象づけはしたが、数年後の姿を語る言葉は実に貧相である。待機児童を抱えた母親の「日本死ね」のブログに表れる痛切さに対する当初の鈍感な対応が、現政権の長期的視点のなさを象徴している。

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 民進党は、こうした現政権が十分に対応できない課題について、現政権とは異なる国民の感覚に近い言葉を選び取るべきだ。そして、財政再建や少子化対策など長期的な課題を練り直し、政府が近視眼的であることを徹底して批判することを基本姿勢としなければならない。またそれをあらゆる場で市民に分かりやすく語りかけるのは簡単ではないので街頭演説のスタイルを徹底的に磨くことも必要不可欠である。支持者との集会の場で、日本の遠い将来に向けて今なすべきことを諄々と語るような政治家が育てば、民進党にも活路が見いだせるであろう。

閣僚全員での政権運営

 第2には、現政権の運営から学ぶべき所を学ぶことである。

 現政権は、党内対立を表面に出さず、官邸中心に案件に応じて少数閣僚での迅速な処理を進めている。首相が重要課題の先頭に立ち、施策全体の相互調整を、黒子となった官房長官が掌握している。2012年の総選挙の3カ月前に総裁に就任した安倍を長とするチームが、十分に準備時間のないまま政権を発足させたため、政権運営を成功させるには、こうした官邸主導に頼るしかなかったのである。これに対して、民進党は、入念な準備を重ねて、閣僚全員がチームとなるような政権運営を目指すべきであろう。それによって、幅の広い政策への迅速な対応が可能となるのである。

党イメージの安定化

 第3には、政治不信の高まりを防ぐ姿勢を明確に示すことである。

 安倍政権には様々な問題はあるが、何はともあれ政権交代後3年間安定政権を構築したことは画期的であった。2006年以降、内閣が1年単位で崩壊し続けたのとは異なる局面を作り上げたことで、政権交代が政治の迷走を招くのではないかという政治不信を食い止めたのだ。民進党が現政権に替わりうる存在感を示すためには、政権交代後の混乱を回避できるよう今から、手堅い政権運営を行えるというイメージを有権者に定着させなければならない。

若手の人材育成

 第4には、人材の育成と糾合である。4月の京都と北海道の衆議院補欠選挙や、7月の参議院選挙を前にした自民党のタレント候補を見る限り、自民党には、優良な人材を集めることに限界が生じている。また、若手議員の育成に成功しているかどうかも疑わしい。

 その点で、野党には民間人など人材を糾合しつつ、若手を育成する可能性がある。フラットな組織構造を特徴とする民主党では、若手が活躍するチャンスが大きかった。これを2020年までの4年間で民進党がどう生かしていくかには注目してもよい。過去に縛られず、将来に向けた人材をどう受け入れ、育てていくか。それが民進党には死活的に重要であろう。

 そもそも、民進党は悩める日本の縮図である。それを自覚し、自らの改革が日本を変えるたたき台となることに気づいたときにこそ、この党の将来にも希望が生まれるのではないだろうか。

出典:文藝春秋2016年7月号

牧原出(東京大学教授・政治学者)

民進党は「改革」を捨てろ――2020年「日本の姿」

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