昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

森岡 英樹
2017/04/24

関西3地銀統合は、大蔵省キーマンの「幻の構想」から生まれた

 三井住友フィナンシャルグループ(FG)とりそなホールディングス(HD)が3月3日、系列の関西の地銀3行を経営統合することで基本合意したことにより、地銀業界がにわかにきな臭くなっている。

「地銀同士が集まると、話題は次の再編はどこなのか、腹の探り合いが始まっている」(地銀幹部)という。

統合後は一挙に地銀6位に浮上

 三井住友、りそなの両メガバンクが主導する今回の再編は、三井住友FG系列の関西アーバン銀行、みなと銀行とりそなHD系列の近畿大阪銀行が共同持株会社を設立してりそなHDの傘下にぶら下がるというもの。

 統合後の総資産は単純計算で約11兆6000億円(2016年9月末)となり、一挙に地銀6位に浮上する。地銀業界が浮足立つのも無理はない。「うちの銀行はどうするのか、他行の動向に疑心暗鬼になっている」(先の地銀幹部)というわけだ。

 だが、この関西3地銀の統合には、金融庁がまだ大蔵省銀行局時代にその原点があることは知られていない。

金融界の危機を支えた大蔵省のエース

98年、大蔵省審議官時代の杉井孝氏

 杉井孝氏。かつてのMOF担(銀行の大蔵省担当)であれば知らない者はいない大物大蔵官僚だ。1998年4月に過剰接待疑惑の責任を取って退官し、現在は弁護士であるとともに財政金融企画事務所理事長の職にある。MOF担経験者はいまでも杉井氏のことを「杉井ちゃん」と呼び、親交を続けている。

 その杉井氏が出世街道のトップを走る官房秘書課長、主計局次長を経て官房審議官(銀行局担当)として、旧大蔵省(現財務省)4階にあった銀行局審議官室に移ってきたのは金融界が不良債権処理で危機的な状況に入りはじめた1996年7月だった。

 驚いたのは当時の都銀など主要行のMOF担の連中だった。主計畑の超エリートが銀行局審議官に就くのは異例だったためだ。実は杉井氏の銀行局入りは、当時、「局あって省内なし」と言われた大蔵省内で、銀行の不良債権処理が省全体の問題となったことを意味していた。銀行の経営破綻をどう防ぐかが隠れたテーマだった。

関西の金融機関は“火薬庫”と化していた

 前年には、銀行の別動隊で不良債権の重荷に押しつぶされた住宅金融専門会社(住専)の破綻が表面化し、公的資金の注入が避けられなくなっていた。次は銀行本体に危機が波及するのは時間の問題だった。主計局のエースである杉井氏の銀行局入りは、銀行破綻に備え公的資金の注入を視野に入れた主計局と銀行局の連携に狙いがあったわけだ。

 だが、公的資金の注入は政治問題化が避けられない。安易な銀行救済と受け止められかねない公的資金の利用は難しい。極力、公的資金を使わない銀行救済、つまり銀行再編が大蔵省主導で進められることになる。特に関西は、バブルが遅れて発生した分、山は高く谷は深かった。金融機関はいつ爆発してもおかしくない“火薬庫”と化していた。

地銀と大手銀を救う構想が「幻」となった理由

 実は、今回、経営統合した関西の3地銀は、かつてあった10行が経営破綻等を経て再編・合併した銀行にほかならない。その過程で画策されたのが、まさに今回の統合と瓜二つの持株会社による救済の枠組みだった。

 発案者は杉井氏。関西と関東にそれぞれ、大手銀行による持株会社を設立し、その傘下に破綻が懸念される地域銀行をぶら下げる。同時に、持株会社に公的資金を注入し、大手銀行も傘下の地域銀行も同時に救済する大胆な構想だった。

 そのプラットフォームと目されたのが、関西が大和銀行で、関東があさひ銀行であった。両行ともスーパーリージョナル銀行を標榜しながら、不良債権処理に苦慮していた。同構造は大胆な絵ながら、有効な処方箋であった。

 しかし、ここで大きな誤算が生じる。大蔵省の歴史上、最大のスキャンダルと言われる接待汚職事件の発覚である。MOF担のよる大蔵官僚に対する過剰接待が犯罪と認定され、大蔵省、日銀など官僚7人は逮捕・起訴された。大蔵省は財政と金融が分離され、解体されていく。そして、この接待汚職事件で杉井氏も辞職するのだ。明治期以来、第二次世界大戦後のGHQ占領下も生き延びた大蔵省の分離・解体を前に、金融システムの維持どころではなくなる。金融監督庁に金融行政は引き継がれるが、発案者がいなくなった東西プラットフォーム銀行構想は雲散霧消していった。

3地銀の統合は、銀行再編の引き金となるか

統合を発表した近畿大阪銀、関西アーバン銀、みなと銀のトップ ©共同通信社

 そして、同構想が形を変えて、前向きな構想として再浮上したのが、今回の関西3地銀の統合にほかならない。プラットフォームと目された大和銀行とあさひ銀行は、その後、統合してりそなHDとなった。そのりそなHDの下に関西3地銀を糾合するのが今回の統合劇だ。

 だが、今回の関西3地銀の統合では、持株会社であるりそなHDの傘下に、関西3地銀が共同持株会社を設立してぶら下がるスキームとなる。その共同持株会社にりそはHDは過半出資し連結子会社とするとともに、三井住友FGも20%超を出資し持分法適用会社とする。

 しかし、持株会社の傘下に持株会社をぶら下げることは、いわば屋上屋を重ねるようなもので、効率性の観点から疑問符が付く。にもかかわらずこうしたスキームをあえて採用するのは、共同持株会社の下に、さらに他の地域銀行が加わる可能性があるのではないかと囁かれている。

 杉井氏の案では、大手行のプラットフォーム銀行は関東、関西のみならず、全国に展開される可能性があるとみられていた。今回の関西3地銀と同じような統合が全国で起こるかもしれない。

はてなブックマークに追加