裕福な家庭に嫁ぎ、専業主婦として生きていくはずだった彼女。だがある日、夫が起こした性犯罪によって、人生は一変する。被害者は、彼女が最も信頼していた“親友”だった。なぜ彼女は、親友を傷つけた夫と別れなかったのか。犯罪者の家族として生きることを選んだ、その理由とは――。

 阿部恭子氏の新刊『お金持ちはなぜ不幸になるのか』(幻冬舎)よりお届けする。なおプライバシー保護の観点から、本文中の人物名はいずれも仮名である。(全2回の2回目/最初から読む

写真はイメージ ©getty

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親友をレイプした夫

 性犯罪者──。夫は過去に強制性交罪で逮捕され、懲役5年の判決を受け、収監されていました。夫がレイプした女性は、私のかつての同僚で親友でした。夫は最初から、私ではなく親友のことが好きだったのです。

 夫が言う「性犯罪者に与えられた罰」とは、愛していない女性を抱かなければならないことなのでしょう。夫にとって、好きでもない私とのセックスはレイプされているようなものなのかもしれません……。

 私と夫は、かつて東京の大企業に勤めていました。夫とは社内恋愛で結婚しました。私は短大卒で一般職。私に出世願望など一切なく、できるだけ早くに結婚し、子どもを産んで家庭に入ることが夢でした。

 今は都会では専業主婦が少数のようですが、田舎ではそれほど珍しくないし、私の母も親戚の女性たちもほとんど専業主婦で、それが当たり前だと思って育ってきた世代です。

 夫がレイプした女性、伊藤香奈は大学院卒で、留学経験もある女性でした。香奈はプレゼン能力が高くアイディアも豊富で、有能な女性が入ったと社内でも評判になるほどでした。

「先輩」

 同い年だけど入社が早い私のことを、香奈はそう呼んで慕ってくれていました。彼女は新卒の社員に比べ年齢がいってからの入社だったので、同期の社員とはあまり馴染めなかったようです。

「先輩、一緒にランチいいですか?」

 いつもひとりでお弁当を食べている私に香奈は声をかけてくれました。