「尚美でいいよ、同い年でしょ?」
「じゃ、私のことも香奈って呼んで」
香奈は美しく服装もスタイリッシュですが、気取った感じはなく誰からも好かれる存在でした。それでも恋愛に関しては奥手というか、しっかりした価値観を持っているので、同期の男性陣からは高嶺の花と思われ、近づきにくい存在だったかもしれません。
私は社内で、男性の話題ばかりで盛り上がっている女性社員たちとは距離を置いていました。彼女らの群れには属さず、ひとりでいるか、むしろ男性社員と仲良くしていました。夫の良太もそのひとりです。
香奈とは同じプロジェクトで一緒になり、ランチを重ねるうちに意気投合し、プライベートでも付き合うようになりました。香奈は地方の出身で、よく実家から送られてきた野菜やお菓子などを分けてくれていました。
「早く結婚して仕事を辞めたい」
私は一刻も早く結婚して仕事を辞めたい。香奈は家庭より仕事に生きがいを見つけたい。ふたりの人生の方向性は正反対なのですが、お互い一緒にいると安心できる存在でした。
仲良くなるにつれて、恋の話もするようになりました。香奈が密かに憧れていたのはダンディーで部下から慕われている部長でした。一時期、香奈と不倫の噂が流れたことがありましたが、事実ではありません。憧れているだけで、香奈は恋より仕事に夢中でした。
私は刺激的な恋より、結婚して家庭に居場所ができることを求めていました。飲み会で知り合った彼氏がいたのですが、結婚願望がないとわかると、それ以上関係を進めることはありませんでした。良太は結婚を前提に交際してくれたので、彼に決めたのです。