黒木奈々さん31歳、フリーアナウンサー。2014年4月に「国際報道2014」(NHK BS1)のメインキャスターに抜擢されて4カ月。毎日22時からの生放送出演にやっと慣れてきたところだった。
「『キャスター』は私の人生そのものなのに。努力してやっとつかんだチャンスなのに――(略)
なんで、なんで、なんで……。急に涙があふれ出てきた」
黒木さんは新刊『未来のことは未来の私にまかせよう』に、そう綴っている。
その後、彼女は自ら胃がんであることを公表し、手術、抗がん剤治療と真正面から病気と闘ってきた。働く女性が、がんに倒れたとき、何を考え、悩み、選択していくのだろうか――。
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――突然の告知だったそうですが、それまでに自覚症状などはあったのですか?
いいえ、いたって健康だと自分では思っていました。本にも書いたのですが、フランス留学時代の友人たちと久しぶりに会い、お店でお酒を口にしたとたん激痛に襲われたのです。救急車で運ばれ、胃潰瘍による穿孔と診断されました。7月末に1週間ほど入院した後、鹿児島の実家に帰り、しばらく休養していました。その後、番組に復帰した矢先のことでした。
――医師から直接、病名が告げられたのですか?
8月27日のオンエアの後、母から携帯に実家に連絡するようにとのメールがあり、電話をしたところ、父から告げられました。胃潰瘍のときに取った細胞を調べたところ、悪性だとわかったのです。とても信じられませんでした。一緒に出演しているNHKの有馬キャスターが声をかけてくれたのですが、「私、がんだって」と言ったとたんに涙がとまらなくなってしまいました……。
――すぐに思い浮かんだことは何ですか?
仕事のことです。月曜から金曜まで毎日オンエアがあり、その日は水曜日でした。せめて週の終りの金曜日まで出演したかったのですが、「こんな事実を知ってできるのか」と父に言われ、泣く泣く翌日から休みを取ることにしました。
小さい頃からずっと「ニュースキャスターになりたい」というのが夢だったので、やっとそれがかなったばかりの時に、なぜ私だけ?と、あまりの理不尽さに納得がいきませんでした。仕事のことばかり考えている私に、4歳上の兄が「奈々には悪いけど、仕事のことなんて俺にとってはどうでもいい。奈々が生きていてくれれば何でもいい。生きていれば何でもできるんだから」と言ったんです。それで、ハッと目が覚めたというか……。確かにそうです。仕事に執着しすぎて、まずは生きのびなければならないということを忘れていました。