小山先生、イーピャオ先生へのインタビュー、前半はお楽しみいただけたでしょうか。では後半、おかわりをどうぞ!

小山ゆうじろう先生(右)と、原案担当のイーピャオ先生(左)

揚太郎が覚醒するコマがSNSで拡散してヒットした

――『とんかつDJアゲ太郎』は、連載が始まるとすごい勢いで広まっていきましたよね。

イ:とんかつ屋とDJって同じなんだ、という主人公の揚太郎が覚醒するコマが切り取られて、ツイッターなどのSNSで拡散されたんです。あのコマがとても生きました。

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小山:あのコマには、当時間違えて「FLY」と書いてしまったところがあるんです。ほんとうは「揚げる」だから「FRY」なんですよ。単行本ではさすがに直していますが、未だに間違えているものがネットで拡散されていて、ちょっと恥ずかしいです(笑)。

――そのシーンでは、キャベツの千切りのBPM(※編注:ビート・パー・ミニット。一分間でのビートの数を表す用語)が音楽のBPMと同じだ、というとても特徴的なセリフもありますよね。

小山:そこに関しては、実は具体的に考えていなかったんです。とんかつとフロア、揚げるとアゲるっていうダジャレが、そもそも酔っ払った状態で生み出されたネタだったんです。その酔った流れで、揚げ物を揚げるためのフライヤーと宣伝用のチラシのフライヤーが同じだとか、そういう共通部分を探していったんですね。キャベツを刻むビート、というアイデアもそこからでした。

イ:連載当初、とんかつとDJの共通点をキーに1話ずつ作っていく形にしてしまったので、それ以降、共通点を探してくるのが大変でした。BPMに関しては、本当になんとなくでセリフにしちゃっただけですね。ただそのおかげで、アニメ化されて実際に音をつけることになったとき、スタッフのみなさんは苦労されたみたいです。もうしわけない(笑)。

小山:それとDJのシーンでは、「ドゥン、ドゥン」のような擬音語の描き入れ方もけっこう工夫しています。コマの脇に角型のフキダシを作ったりもしながら、クラブミュージックの基本である4つ打ちの音楽の、等間隔にビートがある感じをイメージさせる描き方を模索していたんです。

イ:擬音やラップの書き文字は、隠れた実験だったんだよね。

打ち合わせの前後は極力とんかつ屋に行っていた

――とんかつ屋の取材などはされましたか。

小山:第1巻のグラビアに載っている、蔵前の「とんかつ すぎ田」さんには、最初のころはよく話を聞きにいっていました。おれの父親がとんかつ好きなんです。なかでもすぎ田が一番好きで、店長の佐藤さんとは知り合いだったんですね。これはもう話を聞かない手はないと思ってご協力いただいていました。それで毎巻、巻末にすぎ田の名前を入れているんです。だけど毎回話を聞けていたわけでもないので、正直なところ、とんかつ面はこのマンガのウィークポイントだと思っています。

すぎ田 ©かつとんたろう

イ:毎週の打ち合わせの前後は極力とんかつ屋に行くことにしていました。でもフィールドワークが足らない部分はあるので、『とんかつ フライ料理 ―人気店のメニューと調理技術―』という本をすごく参考にしましたね。

小山:この本はふたりで「バイブル」と呼んでいたくらいなんです。でもあるとき、ふたりとも無くしてしまって、もう一回ずつ、計4冊買ったんですよ。それだけで5000~6000円かかっています(笑)。

イ:これは調理専門の出版社である旭屋出版さんから出ている専門書で、他の店ではどういう調理をしているのかという具体例などが載っています。調理例のグラビア、それこそ『アゲ太郎』の単行本巻頭のグラビアのようなものがあって、それぞれの店の揚げ方の工程があって、という形です。この本で学んだところは大きいですね。

――作品を読んでいると、ほかにも下調べをされているように見える部分はいろいろありました。たとえば上野の「黒門」というお店もそのひとつです。

イ:「黒門」の名前の元となったのは、黒門町という地名です。ここは上野のとんかつ屋がたくさんある地域で、現在の上野1丁目のあたりなんですが、東京が35区あった時代には下谷区黒門町という住所でした。今も黒門小学校という学校があったりと、いろんな形で地名が残っています。そういった土地柄みたいなものは、揚太郎のいる渋谷のしぶかつだけではなく、それぞれの立地にあわせた店構えやメニューとして反映させようとは思っていましたね。

小山:もっと離れて名古屋や関西に取材にも行きました。そこでは必ずいままでとなにか違う、そこにしかないノリや特色があったので、おれはそれを素直に描いてた感じです。特に差をつけようとは考えていませんでしたね。