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加藤 隆則
2017/06/29

「習おじさん」こと習近平の“ゆるキャラ”戦略

“農民層の心”を“鷲掴み”にする習氏のPR方法とは

source : 文藝春秋 2016年2月号

genre : ニュース, 国際, メディア

「習お父さん」「可愛(かわいい)!」――習氏の大衆人気

 二〇一五年九月三日、北京の天安門で行われた抗日戦争勝利七十周年記念の軍事パレードは最新鋭兵器が多数初公開され、周辺国に対して軍事的脅威を煽る結果となった。天安門の楼上でこぶしを振り上げる習近平中央軍事委員会主席を見て、多くの日本人は強権を振るう独裁者のイメージを強めたに違いない。

 私はあの時、北京市内のホテルのラウンジで中国中央テレビ(CCTV)の実況中継を見ていた。オープンカーの習氏が長安街に整列する兵士を観閲するシーンで、ラウンジに居合わせた二十代半ばの中国人女性が「可愛(クアイ)(かわいい)!」と叫んだ。何事かと聞くと、彼女は携帯のチャットアプリ・微信(ウェイシン)で友人から送られてきた画像を見せた。「くまのプーさん」を模したクマがおもちゃの車に乗っている写真だった。習氏をプーさんに見立てているのだ。

 いかめしい表情の軍最高指導者と私的なチャットで流れる親しみやすいイメージとの落差はちぐはぐな印象があるが、権力の源泉が軍(ハード)と世論(ソフト)にあることを思えば納得がいく。

 軍事パレードの三日後、北京の目抜き通り・王府井(ワンフーチン)で露店の土産店をのぞいた。その半年前、習氏の写真をプリントした絵皿が一枚、毛沢東グッズと一緒に並んでいるのを見つけたが、今回は彭麗媛夫人とのツーショットも含め十枚近くに増えている。狭い店舗にしては破格のスペースだ。興味深げに眺めていると女性店主が、

「人気の習大大(シーダーダー)だ! よく売れているよ!」

 と声をかけてきた。「習大大」はネットで広まった習氏の愛称だ。郷里の陝西省方言で「習お父さん」といった親しみがこめられている。「プーさん」に通ずるイメージだ。

 トウ小平、江沢民、胡錦濤ら過去の指導者をしのぐ習近平グッズ現象は、習氏の大衆人気を物語る。彭夫人は人民解放軍の歌手で、旧正月の春節に放映される人気歌番組の常連だった。日本で言えば、美空ひばりや島倉千代子といった演歌のスターだ。ファーストレディーの存在も習氏と庶民との距離を近づけるのに一役買っている。

中国国民にとって「可愛(かわいい)!」らしい「習お父さん」こと習近平 ©getty