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日本一選挙に強い男・中村喜四郎70歳が日々欠かさない「すさまじい努力」とは

「オートバイに乗れなくなったらおしまい」――『無敗の男 中村喜四郎 全告白』より

2020/01/17
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「オートバイ乗り」になり切って

――乗っているのは、ホンダのスーパーカブですか。

「カブじゃないよ」

――え?

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「カブじゃ、オートバイサーカスにならない」

――どういう意味ですか?

「カブはノークラッチでしょ。アクセルを踏んだだけでスーっと行っちゃうじゃないですか。それがクラッチレバーがあるバイクだと、クラッチを握っている間はアクセルを踏んでも出ていかないでしょ。ブルン、ブルンと空吹かしできるわけですよ。つまり、オートバイに乗って遊説する時は静かに乗っていてはダメなんですよ、静かでは。音が人を興奮させるわけだから、うるさくないと意味がない」

選挙になれば、「喜友会」の熱狂的な支持者たちが演説会場に集まる

――そこまで計算しているんですか。

「私の真似をして、スクーターに乗ったり、カブに乗ったりしながら遊説している人がいるけど、誠に滑稽なわけです。スーとやってきて、トコトコ。スーと消えても、何の感動も生まない。私に言わせれば、『何やっているんだ、お前さん』という感じ。あれじゃ、自転車を使うのと変わりませんよ。

 政治家がバイクに乗っているんじゃない。『オートバイ乗り』になり切るんです。ユニフォームもちゃんとプロのお店に行って、本物のレーサーが実際に着ている、赤くて艶やかなデザインのものを選んで買ってくるんですよ。視覚からも若さと躍動感を演出する。見栄えのする格好をする。

 ヘルメットも工夫する。私は人よりも頭がデカいんで、普通のヘルメットが似合わないんですよ。いかつい感じになって、見た目も悪い。何かないかと思って探して、野球用のヘルメットを改造したもの。そこに名前を書くとかっこいいなと思って、『NAKAMURA』と、アーチを描くようなデザインで書いてもらった」

「ホンダの『ベンリィCD50』しかないんですよ」

――では、肝心のバイクはどんな車種を選んでいるんですか。

「それはねえ、選挙では50ccの原動機付自転車しか乗れないわけですよ。街宣に使える自動車は(無所属候補は)1台までだから、125ccや250ccでは(「1台」にカウントされて選挙カーと併用すると)違反になっちゃう。50ccでクラッチがあるものを探すとホンダの『ベンリィCD50』(2007年に生産終了)しかないんですよ。もう売っていないモデルですよ。2台持っていて、大切に手入れしている。選挙中は、毎晩点検に出して手入れしてもらっている」

2007年に生産を終了したホンダのベンリィCD50(ホンダ公式サイトより)

 選挙期間中、中村の選挙カーに張り付く白いハイエースワゴンには様々な必需品が積まれている。荷台には、中村が乗るバイクが故障した時のために2台目のベンリィが用意されているのだ。