入社して以来、自分専用の固定席を持ったことがない――そんな社員が多数存在する会社がある。文房具やオフィス用家具で知られるコクヨ株式会社だ。
コクヨが大阪・東成区に新社屋をオープンさせたのは1969年。全館を「生きたショールーム」として一般に公開して話題となった。
コクヨ製のオフィス家具に囲まれて働く社員たちの姿を見てもらおうという試みは、「お望みなら、デスクの中までお見せします」という宣伝コピーまであったほど徹底されたものだった。同時にそこは、社内外の声を集め製品の開発や改良を重ねるための実験の場でもあった。
その後、コクヨは各地にこうした「ライブオフィス」を作り、先進的な試みを続けている。そのひとつが近年流行しているフリーアドレスのオフィスで、97年には日本国内では前例のなかった大規模導入を実現させた。
「導入からもう20年以上経っていますので、固定席を持ったことがない、引出しのある机に座ったことがないという社員も多いんですよ」
こう語るのはワークスタイルイノベーション部で、オフィスのデザインだけではなく大手法人向けのワークスタイル変革のコンサルタント事業を行う鈴木賢一氏だ。鈴木さん率いるコンサルティングチームのメンバーは、それぞれが分刻みのスケジュールで社外を飛び回り、社内で一堂に会することがほとんどないという。たしかにそういう人たちには、フリーアドレスへの抵抗は小さいだろう。
「とはいえ職種によって固定席が必要な人、デスクトップPCがどうしても必要な人もいます。ですのでクライアントにご提案する際も、何がなんでも完全フリーアドレスというわけではありませんし、コクヨ社内でも同様です」
100社あれば100通りのフリーアドレスがある
現在コクヨは全国に27か所のライブオフィスを構えているが、それぞれの働き方や土地柄を考慮して、固定席とフリー席の構成や全体のデザインも変えているのだという。
「それは実際のコンサルティング業務としてご提供する際も同じで、100社あれば100通りのフリーアドレスがある、と考えています。カタログにあるメニューを組み合わせてご選択いただくようなスタイルを想像されるかも知れませんが、『そもそもなぜフリーアドレスにするのか?』『新しいオフィスが何を実現させれば成功なのか?』などと、働き方の根本を問い直す議論をさせていただいて、デザインやルール設計に落とすようにしています。内装や家具だけが欲しいというご要望であればデザイン部門をご紹介するなど、コンサルタント部門とは業務範囲の棲み分けをしています」
つまり、ハードとしてのオフィス設計ではなく、ソフトとしての「働き方」まで変えるのが仕事だというわけだ。では、コクヨはフリーアドレス導入で何が変わったのか。同社がフラッグシップと位置づける東京・霞が関のライブオフィスで、コクヨの考える「働き方としてのフリーアドレス」を見せてもらうことにした。