新しいオフィスの形態として注目を集めるフリーアドレス。
2年前にフリーアドレスを導入し、その成果から、すでに管理や企画系の12以上の部門にフリーアドレスを採用している日本航空(JAL)では、調達本部がそのパイロット・ケースを担った。
調達本部とは、大は旅客機の機体から、小はラウンジで提供するパン1個、機内Wi-Fiのような無形サービスまで、あらゆる物資を買いつける部署だ。年間の調達額は約7000億円に達し、発注件数は4万件以上、取引先は8000社以上に及ぶ。
「7年前の経営破綻以前は、調達は商材によって縦割りというか、各部門が必要なものをそれぞれ買いつけていました。そこで稲盛(和夫)会長の時代に組織改革で調達を一元化し、ストラテジーから運用まで一貫して限られたリソースで回すことになったのです」
と、調達第一部 企画グループ長、埋金洋介氏は説明する。
部署としてワークスタイル変革に立候補
リストラで人数が減ったこともあり、オフィス改革前の職場環境は厳しかった。
「バラバラだった調達の担当者同士が一カ所に集まり、隣でやっている別の商材の仕入れ方や仕組みを見て、バイヤーとして、よりプロフェッショナルになるために既存のノウハウを共有しました。それでも追いつかないほど、夜遅くまでハードに働いていましたね」
2014年上半期、JALがワークスタイル変革の試験導入を担う部門を募った時、調達本部として立候補、同年10月に着手した。翌年1月末にはオフィスのリノベーションを済ませたというから、凄いスピード感だ。
「まずペーパーレス化、ノートPCとリモートアクセス、電話の個人スマートフォン化にかかりました。社員をデスクに縛るのは紙の業務文書、デスクトップとLANケーブル、固定電話です。それに若手からは、電話の取次ぎは手間も時間も無駄という声もありました」
共有ストレージ化でオフィスのダイエット
業務文書はPCのハードディスクではなく会社の共有ストレージに保存を義務づけ、社員はノートPCからアクセスするという、そもそも紙を必要としない仕組みを作った。紙書類は部署全体で80%、ダンボール291箱分も廃棄したという。廃棄できない文書に関しては、全て電子化して保存した。
資料やノートPCをしまうために社員個々に割り当てたロッカーも、4カ月に一度はシャッフルし、書類を溜めない仕組みを作った。
「書類の電子化によって業務の見える化が進みましたね。ある書類が誰かの机の中にあって、内容を把握する本人が帰社するまで業務が滞る、といったことがなくなりました。カバレッジが効くようになったのです」
席数は人数の8割に抑えた
実際、JAL社員の名刺に固定電話番号はなく、代わって携帯の番号が記されている。
「固定の内線電話もないですから、グループ内でのやり取りや情報共有は、iMessageを使っています。こうして場所の制約なく働けるようになって、オフィスをフリーアドレス化しました。調達の仕事はバックオフィスのように思われやすいですが、打ち合わせや出張も多く、オフィスにつねに流れを作って人やモノを滞留させてはいけないんです。ですからワークエリアのデスクはすべて4人掛け、全員が通路側(笑)。部門全体で120人いますが、じつはその8割分しか席数はありません」
書類やデスク、椅子などのオフィスの備品の数を大幅に減らすことができるのはフリーアドレスのメリットだ。しかし、外形的な変化だけでなく、そこから一歩進んだ「業務のスリム化」を実現できたことが、JALが2年で12部署以上をフリーアドレスオフィスにしたゆえんなのだろう。
<撮影=杉山拓也/文藝春秋>