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「30代前半でも早期退職を求められる」壮絶な日本企業の現場で起きていること

HRテックで人事評価がシビアになされるようになった結果……

2020/01/24
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働きたい方法で働ける選択肢を意図的に用意できているか

 いまや、労働組合も条件項目に入れられ、また、若い人たちの定時退社や非正規労働で穴を埋めてくれる派遣社員さんたちの労務情報もHRテックは緩やかに呑み込んで、企業の中に美しいディストピアができ上がってきている状況になっています。外で合コンしてる女性が「商社の人たちはここが駄目」やら「年収850万円以上でないと結婚相手にしたくない」などと情緒的にほざいている間に、そういう高い給料の出せる大きな組織は「それだけの給料を出しても利益を出してくれる社員なのか」を客観的に計測しようとしています。

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 あくまで私が見る限りという狭い世界ではあるのですが、生き甲斐をもって楽しく働く営業・ライン職より、そういう人たちをパラメータ化して、サカつくのように「ぼくのかんがえた さいきょうのじんじ」を駆使しようとする経営企画・スタッフ職の差、みたいなものが今後のビジネス界では出てくるのかもしれません。

 人と人とが集まって組織になり、意識をもって働いているのだから、あまり杓子定規に人事を考えるべきではないという私も古いタイプの人間なのかもしれませんが、一部のHRテックの世界ではパラメータ至上主義を突き詰めた結果、かなり露骨な女性差別、育休・時短労働に対する抵抗感ある人事をうっすら進めようとしている節もあります。

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 もちろん、いま巷で言われているHRテックという世界の大半は、人事評価と効果測定を解析する程度の、まだたいしたことのない機能しか持たないサービスも多いのも仕方のないことです。しかし、これらのテクノロジーを使って企業がより強い組織、良い人事をやろうとしているとしても、それが働き手にとって本当に望ましい社風や素晴らしい会社になっているのかは分かりません。その企業の働きやすさを見るとき、やはりキャリアの中盤に差し掛かった30代中盤の女性がどれだけ離職しているのかを確認しようとすると(確認するのは大変ですが)、かなりその企業の組織の良し悪しが分かる気がします。

 また、週休4日とか定時退社を前面に出して広報をしている企業よりは、子どものいる共働きが働きやすいand残業してでもバリバリ働きたいといった働く側の気持ちを汲み取る組織を作っている会社がやっぱり伸びているのかなあという印象はあります。単に男女平等だ、女性進出だ、定時退社だ、というよりは、働きたい方法で働ける選択肢を企業側が経営として意図的に用意できているほうが大事、と言えます。

結局ブランド力のある大手企業の人事は強い

 最後に、大学の劣化だとか新卒一括採用の是非みたいなことはみんな言います。ま、私は勝手に人様の会社に土足で上がり込んで「データ見せろ」と言って楽しく解析しているだけなので対面で多くの知見を持つわけではありませんが、大学や新卒が可哀想なのは先日の「内定辞退率騒ぎ」でリクルートキャリア社が槍玉に挙げられてしまったことの裏返しで、やはり人手不足で売り手市場とはいえ、ブランド力のある大手企業の人事は本当に強いってことなんですよ。

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 その大手企業は戦後一貫して標準化した人材を社会に求め、その要請に基づいて大学では共通一次やセンター試験で一発勝負の学力テストをやって序列を作り、なるだけ特徴を加味しない標準的な子どもを社会に送り出せるような仕組みを作ってきました。