文春オンライン

安倍首相の「長い言い訳」と安倍チルドレンの「暴言」を“丁寧に”検証する

失言だらけの1週間を振り返る

2017/06/24

安倍晋三 首相
「『信なくば立たず』だ。何か指摘があれば、そのつど真摯に説明責任を果たしていく。国民から信頼が得られるように、冷静に、一つ一つ、丁寧に説明する努力を積み重ねていかなければならないという決意を新たにしている」

NHK NEWS WEB 6月19日

 名言、珍言、問題発言で1週間を振り返る。今週は、安倍首相の記者会見から始まった。安倍首相は会見で次のように反省の弁を述べている。

「印象操作のような議論に対して、つい強い口調で反論してしまう。そうした私の姿勢が、政策論争以外の話を盛り上げてしまった。深く反省しております」

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真摯、冷静、丁寧といった言葉を発し続けた記者会見だった ©時事通信社

 これまで強気な姿勢を崩さなかった首相が頭を下げたのには理由がある。まったく解明されない学校法人「加計学園」の獣医学部新設に関する疑惑、「共謀罪」の構成要件を改めた「テロ等準備罪」を新設する法律の強引な可決など、立て続けに起こった問題によって高かった内閣支持率が急落しているのだ。毎日新聞の世論調査では不支持率(44%)が支持率(36%)を上回り、首相に近いとされる読売新聞でも支持率は12ポイント減の49%にまで落ち込んだ。会見で安倍首相が「政府への不信を招いた」と語ったとおりの結果が出ている。

国会を閉じた後に「丁寧に説明する」と表明しても意味がない

 そこで記者会見では「反省」の弁とともに「丁寧に説明する努力を積み重ねていかなければならない」と殊勝に述べたが、国会を閉じた後に「丁寧に説明する」と表明しても意味がない。「支持率回復のためにお詫びのポーズを見せればいい、という首相の本音が見え隠れする会見」と見られており、会見に続く質疑応答でも昭恵夫人が懇意にしている記者からの質問が続くだけで加計問題などが追及されることはなかった(『週刊文春』6月29日号)。「何も答えていない」「今回の低姿勢も口先だけ」(毎日新聞 6月19日)、「逃げた印象は拭えない」(河北新報 6月21日)と新聞各社も手厳しい。

 安倍首相の会見の翌日、自民党の竹下亘国対委員長は民進党が求めた閉会中審査開催をあっさりと拒否(共同通信 6月20日)。「真摯に説明責任を果たしていく」という首相の言葉は一日で反故にされた。その後、公明党の山口那津男代表も閉会中審査の検討を求める考えを示したが、竹下氏は同様に「早期に行わなくても良いのではないか」と否定的だ(中日新聞 6月23日)。やっぱり「口先だけ」だったのか。

囁く菅官房長官と目を瞑る安倍首相 ©杉山拓也/文藝春秋

 そもそも、安倍首相は第2次安倍政権発足時の所信表明演説で「丁寧な対話を心がけ……」と語っていた。その後も、特定秘密保護法、集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈変更の閣議決定、安保関連法、原発再稼働、沖縄米軍基地問題などについても「丁寧な説明」と繰り返してきたが、いずれも十分な説明は行われていない。政治アナリストの伊藤惇夫氏は「これまでの政権運営で、一種の成功体験として『世論を二分する案件も数の力で決めてしまえば国民の関心はやがて薄れる』と考えていることが大きい」と分析している(毎日新聞 6月22日)。安倍首相の言う「丁寧な説明」は国民の関心が薄れるのを待つという意味なのかもしれない。

 会見で安倍首相は「信なくば立たず」という三木武夫元首相が座右の銘にしていた言葉を使った。田中角栄首相の金脈問題で国民の不満が高まっているところへ抜擢された三木氏の二つ名は「クリーン三木」。小派閥の長が首相の座に就くのは異例のことだったが、国民からの信頼を大切にした姿勢が認められた(読売新聞 3月27日)。三木元首相は「私は何も恐れない。ただ大衆のみを恐れる」とも語っていたが、内閣支持率の低下は「丁寧な説明」がなされないことに不信を抱く「大衆」の意志を示している。

クリーン三木 ©土倉一夫/文藝春秋