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サンシャイン水族館「“天空のオアシス”として生まれ変わった理由」――水族館哲学1

水族館プロデューサー・中村元の『水族館哲学』から紹介します

2017/07/07

genre : エンタメ, 読書

note

高層ビルの最上階に広がる別世界

 しかし、出かける時間も体力もない人は? あるいは毎週でもこの都会から逃げ出したい人は? そんな人々のために自然を提供しているのが、現代の水族館なのだ。

空と緑の大地を海と滝で繋げた「天空のオアシス第2章」は命の楽園。

 現代社会が人々に与えているのは、都会のコンクリートによるストレスだけではない。人の密集した社会で生きていくためのさまざまな社会的義務、複雑で面倒な対人関係といった現代特有のストレスにさらされて、人々の心身は常に渇ききっているのだ。

 そこで天空のオアシス水族館である。この水族館に集まる人々の多くが、水生生物そのものよりも、それらの棲んでいる水中世界に浸りたくてやってくる人たちだ。どこまでも広がる青い水中、そこを漂う浮遊感、水による清涼感、水族館の水槽は潤いにあふれた非日常世界として、人々の心を癒し、生きる力を与えてくれる。それが「水塊」の力である。そのため、サンシャイン水族館は「水塊」を見せ、一人であるいはカップルで、水中世界に包まれることを最優先にした展示にあふれている。水塊度は日本一といってもいい。

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海中の鍾乳洞。一つ一つの水槽の中に命あふれる水中世界が広がっている。

 高層ビルの最上階のため、規模も水量も小さいながらそれを感じさせることはない。それどころか、「サンシャインラグーン」水槽の前に立てば、どこまでも広がる南海のサンゴ礁の海中に潜っているかのような感覚に陥る。この水槽の前に何時間も座っている人も少なくない。他にも、海中の鍾乳洞、日本近海、深海の展示も見応え十分だ。

 10階で光射す海のオアシスの青色に染まり、世界初のクラゲトンネルを抜けて11階に上がれば、輝く緑があふれる川のオアシスのエリアが広がる。水草の世界、熱帯のデルタ地帯、南米のカエル……静かなブルーに癒された心は、広がるグリーンでさらに甦るだろう。日本人が落ち着く色、青と緑の中で息づく水生生物が、人々の心身を潤しリフレッシュしてくれるのだ。

世界初のクラゲトンネル。クラゲの浮遊感は現代を生きる人に心地よい。