『水族館哲学 人生が変わる30館』(中村元著)

 水族館のすべてを知り尽くす敏腕プロデューサーが、全国の水族館から30館を独自の哲学で選んだ『水族館哲学 人生が変わる30館』。刊行を記念して本書から数館を紹介してまいりました。最終回は蒲郡市竹島水族館。前回の「北の大地水族館」に続き、こちらも起死回生を果たした水族館です。たいへん古い建物で、展示も流行の大水槽はありません。ですが、行列ができるほどの人気ぶり。どんな秘密が隠されているのでしょうか。

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とんでもなくショボイ出発点

「弱点を武器にする方法を学べる水族館」の第2弾は、自ら「ショボイ」と宣言する超古典的水族館でありながら集客倍増を果たした竹島水族館。この水族館館長は、私の自慢の門下生なのだが、つい最近まで主任という立場だった。その彼が集客を増やして来た過程は、裏技、裏道とでも言うべき驚きの手法の連続だ。

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昭和のレトロ感たっぷりの外観。ここに入館待ちの長蛇の列ができる驚き。

 竹島水族館は1956年の開館以来61年間、ハード面がほとんど変化していない古い水族館だ。日本最古級の外観は昭和レトロ風で大水槽もなく、古くさい汽車窓水槽が並ぶ。当然利用者は少なく、10年前には年間入館者が12万人まで落ち込み、廃館も検討された。

 竹島水族館の弱点は、建物全体の古さによることは間違いない。還暦のお爺さんが中学生時代の学生服をずっと着続けているようなものなのだ。新しく建て替える費用がない中で、弱点を武器にしなくてはならない。

 北野ハジメ君は、生まれついてのチビでベタ足で、どんなに走る練習をしてもかけっこ、ジャンプはビリだった。それで中学では9人制のバレーボール部に入部、ライバルの少ない守備要員として不動のレギュラーになった。実はこれ、私の歴史だが、北の大地の水族館がとった道も同じだ。

 一方、竹島リュウジ君も、同じように足が遅い。ところが中学校は小さな分校で、陸上部しか選択肢がない! それが竹島水族館の置かれている状況なのである。

 そんな時、どうすればいいのか? 大丈夫、それでも弱点を活かす道はある。例えば長距離走選手あるいはコーチとして一目置かれる存在となるのもいい。いや、もっとトリッキーな方法もある。勝手に障害物競走という競技を新しくつくってしまって、他にもいる足の遅い子もその仲間にしてしまうのだ。竹島水族館の小林龍二館長(当時主任)がとった方法は、まさしく障害物競走への道だった。