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竹島水族館「逆転の発想で“ショボイ”を武器に」――水族館哲学4

水族館プロデューサー・中村元の『水族館哲学』から紹介します

2017/07/10

前代未聞のプレスリリース 

 そして特筆すべき「魅力づくり」の大きな転機は、深海生物のタッチングプール「さわりんぷーる」を含む、深海生物展示コーナーを新設したことだった。失礼ながら、この工事費用もやっぱりショボイ予算で冷却装置が付けられないため、せっかくの「日本初」の展示にもかかわらず、当初の夏は肝心の深海生物タッチングが不可能という状況だった。 それでも、「世界最大のカニ、タカアシガニにも触れる!」を売り文句にオープンした。 

巨大なタカアシガニに触ることができるタッチングプールは世界唯一。

 しかしこの程度では、メディアにも小さくしか取り上げられない。そこで前代未聞のプレスリリースが生まれた。「今年度の入館者が16万人に達しなかったら、男性職員全員坊主になる」の公約込みで、新施設の魅力をアピールしたのだ。面白がったマスコミによってメディア発信は大成功し、それを見てさらに面白がった地元市民が、応援に来館してくれるようになった。 

カピバラが水族館へやってきたのは館の意向ではなかったが、それでもスターに仕立て上げた。
アシカ(オタリア)ショーは毎回超満員!

 久々に来館すれば、飼育スタッフの顔が見え、アットホームな水族館になっていることに親しみを感じる。それまで売れなかった年間パスポートが売れはじめ、なんとたけすいエンジェルスなる、平日の昼間を盛り上げてくれる女性ファンクラブまでできてしまった。 

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 さわりんぷーるから5年の2016年、入館者は16万人どころか、その倍の33万人を突破した。竹島水族館が瀕していた絶体絶命の弱点、それは新しい裏道を探すことのできる大きなチャンスだったのである。

CHECK!
ここではショーさえもユニークで特徴的だ。小さなステージにオタリア(アシカ科)が1 頭だけ登場するアシカショーは、館長自らが現役でトレーナーを務め、調子の悪いときの「謝罪ショー」までもを有名にした。またおそらく世界唯一のカピバラショーでは、カピバラが指示に従うことは全くないが、それが面白いと大人気だ。

DATA

竹島水族館
TEL.....................0533-68-2059
住所....................愛知県蒲郡市竹島町1-6
URL.....................http://www.city.gamagori.lg.jp/site/takesui/
開館時間.............9:00~17:00
休館日.................GW・春夏冬休みをのぞく火曜(祝日の場合は翌日)、6月の第1水曜、12月29~31日(2017年9月から約4カ月間、耐震工事のため休館の予定)
入館料.................大人500円、小中学生200円
交通....................JR蒲郡駅から徒歩約15分。蒲郡駅南口からバスで約5分、「竹島遊園」下車
車=東名高速道路音羽蒲郡ICからオレンジロード経由で約15分

データは2017年5月現在のものです。

文・写真 中村元

水族館哲学 人生が変わる30館(文春文庫)

中村元(著)

文藝春秋
2017年7月6日発売

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竹島水族館「逆転の発想で“ショボイ”を武器に」――水族館哲学4

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