1999年、ひとりの漫画家がひっそりと引退した。平成の奇書私が見た未来の作者・たつき諒さんその人だ。

 本書の表紙には「大災害は2011年3月」とある。出版から12年後、東日本大震災が発生し、「幻の予言漫画」として注目を集めることに。

 ここでは「文藝春秋」2022年4月号に掲載された、たつき諒さんのインタビューを抜粋して紹介する。「本当の大災難は2025年7月」という新たな“予言”を我々はどのように受け止めるべきなのか――。(全2回の2回目/最初から読む

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たつき諒の「なりすまし」が現れた

 私は「やりすぎ都市伝説」(テレビ東京系列)というテレビ番組が好きなのですが、その番組を観ていたら『私が見た未来』が映し出されたのです。表紙の予言が当たった、と紹介されました。表紙の一部が隠されてはいましたが、「私のマンガだ」とすぐにわかりましたし、予期せぬ出来事に衝撃を受けました。

 番組スタッフが私に事前連絡を取ろうとしても、連絡先はわからなかったと思います。本の発行元(朝日ソノラマ)は既になくなっていたからです。

 テレビの影響は絶大でした。放送後、甥や姪がスマホの画面を示して「こんなに騒がれているよ」と教えてくれました。彼らの子どもたちが中高生だったのですが、学校でも話題になっていたといいます。

 私は日頃からネットを使いません。パソコンは作画などに使用しているのですが、ネットには繋いでおらず、スマホもつい最近まで持っていませんでした。ネット上の情報が正しいとは限らないし、知りたいことがあれば図書館へ行って調べるようにしています。

©たつき諒/飛鳥新社

偽物の言動がエスカレートして…

 ところが、騒ぎに乗じて、たつき諒のなりすましが現れました。姪から「たつき諒を名乗ってデタラメなことを言っているやつがいるよ」と言われてネットを見てみると、私ならしないような発言を繰り返していました。2021年には、写真週刊誌やオカルト情報誌などのメディアにも登場するようになりました。

 最初こそ「悪いことを書いていなければ放っておいてもいいか」と静観していましたが、それをいいことに、なりすましの発言はエスカレートしていきました。阪神・淡路大震災も夢で見ていたとか、尾崎豊の死を予知していたとか、さらには富士山が8月に大噴火するという新たな予言まで……。

 偽者がまるで予言者のように振る舞うようになったのです。困ったと思いつつ、直接働きかけて個人情報を知られたら何をされるかわからない、と手を打てずにいました。