25万部突破の直木賞ベストセラーを、『星守る犬』の名手がコミカライズ――。話題のコミック版『少年と犬』(原作・馳星周 漫画・村上たかし)が6月28日、発売になりました。
傷つき悩む人々に寄り添う、一匹の犬の物語。コミカライズにあたっての意気込みや苦心した点、コミック版ならではの読み所について、漫画家の村上たかしさんにお聞きしました。
他の漫画家には絶対、渡したくなかった
――馳星周さんの原作を初めて読んだ時の印象について、お聞かせください。
村上 直木賞を受賞された時に本を買って読んでいて、主人公である”多聞“(たもん)のファンだったんです。強さ、優しさ、切なさがあって……だから、コミカライズの話があった時はありがたかったですね。自分にできるか、できないかはともかく、他の人には絶対に渡したくない、と思いました。
――多聞を漫画で描く際に、心掛けた点はありますか?
村上 原作では、シェパードに和犬の血が混じっているという設定なんです。ただ、それだとかなり黒っぽい犬なんですね。漫画にすると、黒だと表情がわかりづらい。ですから、少し薄めに変更させていただきました(笑)。とはいえ、たんに可愛らしくするのではなく、精悍さを出すように心掛けました。なにしろ、日本中を旅して、サバイバルしていくタフな犬ですから。
――多聞のキャラクターはどのようにして作られましたか?
村上 とにかく、彼は喋らない。背中で語るタイプなんです。旅する先々でいろんな人と出会うんですが、ちゃんとお礼をしてから去っていく。一宿一飯の恩義を重んじる、高倉健のような渡世犬なんです(笑)。そこは意識しました。
――多聞が旅先で出会う、無職の男、泥棒、風俗嬢、猟師などさまざまな人々が漫画には登場します。
村上 普通は主人公がひとりなので、その人物を掘り下げればいいんですが、『少年と犬』の場合、毎回、登場人物が替わる。ですから、キャラの描き分けが大変でした。5冊分くらいの人物を造形しましたね。しかも、登場するページ数が限られているので、ぱっと見て、誰だかすぐに分かるように描き分けないといけない。そこは苦労しました。
特に女性は難しかったですね。僕自身、あまり女性キャラの持ち合わせがないので……。逆に、老猟師なんかはうまく描けたんじゃないかと思います。