熊本地震は、2016年4月14日午後9時26分と、28時間後の16日午前1時25分に発生。前者がマグニチュード6.5の「前震」、後者がマグニチュード7.3の「本震」と呼ばれた。県のシンボルである熊本城が築400年の歴史のなかで最大級の被害を受けたのをはじめ、各地で橋や建物が崩壊し、2週間で関連死者65人、避難者3万3600人以上という大災害となった。

 熊本地震をモチーフに、一匹の犬と孤独な少年との深い交流を描いた漫画がいま話題になっている。『少年と犬』は、釜石で震災に遭い“迷い犬”となった「多聞」が離ればなれになった一人の少年を探し、5年の歳月をかけて熊本まで旅をする物語。

 直木賞を受賞した馳星周のベストセラーを、『星守る犬』の村上たかしが漫画化した。2021年8月から文春オンラインで連載され、大きな反響を読んだ話題作が、このたび完結した。

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釜石から来た”迷い犬” 

 熊本の山中を車で走っていた内田は、ガリガリの状態で現われた一匹の犬を保護する。獣医に連れて行ったところ、極度の栄養失調だった。マイクロチップから犬の名前が「多聞」で、かつて釜石で飼われていたことを知り、内田は不思議な縁を感じる。

 
 実は内田自身も釜石の出身で、津波で家や仕事を失い、一家で熊本に移住してきたのだった。家には、震災のショックで言葉と表情を失い、心を閉ざした一人息子の光がいた。内田は多聞を飼うことを決意する。

 多聞と光は、初対面とは思えないほど打ち解け合う。光は笑顔を取り戻し、少しずつ言葉を話すようになった。

 
 気になった内田は、釜石の知り合いに連絡をとってみる。調べてみると震災前、幼い光と子犬の多聞は、つながりがあったことが判明する。釜石の公園で、祖母に連れられて遊びに来た光は多聞と出会い、毎日のように遊んでいたのだ。ところが、津波が両者を引き離してしまった……。