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AI (人工知能)が心を持つと……

――3月に刊行され各紙で絶賛、増刷を重ねている話題作『ピノ:PINO』についてお聞きします。近未来を舞台にしたロボット型AI(人工知能)の物語ですが、なぜAIを主人公にしたのですか?

村上 漫画家という稼業を37年続けてきたんですが、歴史やスポコンなど、まだ手つかずの分野がいくつかあったんです。そのひとつがSF で、じゃあ、挑戦してみようと。

 実は息子がロボットに興味を持っていて、プログラミングを教えてくれる教室があったんです。ところが親の参加が条件で、仕方なく付き合いで参加したのがきっかけなんです。実際に触れてみると、思いのほか面白く、漫画にできそうだ、と。

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――描くにあたって、苦労した点はどこですか?

村上 とにかく、AIという概念が難しかったですね。専門書を読んで、文字面では分かったつもりになるんですが、いざ漫画化しようとすると、まったく理解していないことに気づく。その連続でした。AIが心を持つというのがいちばんのテーマなんですが、その条件は一体何だろうって……。自分なりに考えに考え抜いて、描いたつもりです。

――まるで手塚治虫の漫画のような、不思議な浮遊感覚のある近未来世界も魅力的でした。

村上 シンギュラリティ(AIが人間の知能を超えること)が実現する近未来という設定なんですが、SFの場合、背景から全部一から考えて描かないといけないので、大変でした。パイプやダクトを出すと近未来っぽくなるので、そこから逆算して、格差が広がって、環境も悪化しているという世界にしちゃったというところもありますね。

 あと、映画『ブレードランナー』が好きなんで、その影響もあります。事故調査員が出てくるんですが、あれは『ブレードランナー』のハリソン・フォードそのままです(笑)。

――AIであるピノの造形が微笑ましいですね。

村上 ピノはかわいく、レトロっぽくデザインしました。本当はロボットではなく、スパコンくらいの容量がないとシンギュラリティは無理だと思いますが……。

 おかげさまで、この作品は大きな反響がありました。SF好きの人だけではなく、親子関係や、自分の身の周りの人に投影して読んでいる人が多かったのが、印象的でした。

――今後の活動、構想についてお聞かせください。

村上 いま歴史モノに挑戦しています。史実を調べるのが大変ですが、やりがいがあります。近いうちにお目にかけられると思いますので、ぜひご期待ください。

村上たかし(むらかみ・たかし)
1965年生まれ。85年『ナマケモノが見てた』でデビュー。すべてを失った中年男と愛犬との旅を綴った『星守る犬』が大ヒット。ほかに、『後妻業の女』(原作・黒川博行)などコミカライズ作品も手掛けている。主な著書に『続・星守る犬』、『青い鳥~わくらば~』、『探偵見習いアキオ…』、『ピノ:PINO』など多数。

少年と犬

馳 星周 ,村上 たかし

文藝春秋

2022年6月28日 発売

ピノ:PINO

村上 たかし

双葉社

2022年3月30日 発売