1979年に放映されたアニメ『機動戦士ガンダム』。それまでの作品とは一線を画すリアリティで評判を集めた同作はいかにして作られたのか? ストーリー案に書かれた「第1話」が、富野由悠季監督によって映像化されていくまでの過程を、アニメ評論家の藤津亮太氏の新刊『富野由悠季論』(筑摩書房)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)

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機動戦士ガンダム「第1話」はどう作られた

『機動戦士ガンダム Blu-ray メモリアルボックス』には、星山(星山博之。機動戦士ガンダムのチーフシナリオライター)による第1話の脚本と、富野の絵コンテ(クレジット上は斧谷稔)が付録として同梱されている。この二つを照らし合わせながら、ストーリー案に書かれた「第1話」がどのように映像化されていったかを検証していこう。

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 まず脚本を読んで驚くのは、ジオン公国と地球連邦の戦争のなりゆきを語るナレーションがない、という点だ。

 本編にはサブタイトルが出る前に「人類が増えすぎた人口を宇宙に移民させるようになって、すでに半世紀が過ぎていた。地球のまわりの巨大な人工都市は人類の第二の故郷となり、人々はそこで子を産み、育て、そして死んでいった」と、舞台が宇宙時代であることを説明した後、「宇宙世紀0079、地球から最も遠い宇宙都市サイド3は、ジオン公国を名乗り、地球連邦政府に独立戦争を挑んできた。この一カ月あまりの戦いでジオン公国と連邦軍は総人口の半分を死に至らしめた。人々はみずからの行為に恐怖した。戦争は膠着状態に入り、八カ月あまりが過ぎた」と、世界設定を説明する。

 このナレーションの前半に合わせて展開されるのが、スペースコロニーという場所を視覚的に伝える映像だ。まず斜めに傾いた大地を俯瞰で捉えた映像から始まり、カメラが動くとやがて地上に大きなガラス窓があいている様子が見えてくる。ミニマムな表現でそこがスペースコロニーと呼ばれる人工の大地であることが示されている。

 続けて大地から爆煙が立ち上がり、それがコロニー外部からの砲撃によるもので、戦争が始まったことが観客に伝えられる。その後、「ニューヨークらしい」(絵コンテのト書)都市にスペースコロニーが落下する様子など戦争の様子が点描される。ナレーションも映像も簡にして要を得た内容を積み重ね、観客を一気に作品世界へと引き入れる。

 脚本には存在しないこの導入だが、おそらくストーリー案の冒頭につけられた「前史メモ」がベースになっているのではないだろうか。

【前史メモ】

 西暦二千六十六年。人類は、スペース・コロニーを建設して、百億に近い人々が宇宙を第二の故郷にしていた。コロニーの一つが、“ジオン公国”と名乗り、地球連邦に対して反逆の狼火をあげた。

 三日戦争、ルウム戦役は第三次世界大戦であった。人類は五十パーセントの人々を失い、コロニーの大半も失った。

 そして、ジオン公国も地球連邦も、共に軍備を消耗して軍事力は、均衡を保つに至った。

 しかし、ジオン公国の独裁主権者ザビ家の強行主義と連邦の傲慢な姿勢が戦争終結の道を選ぶ事をさせなかった。

 戦いは、末梢的なゲリラ戦の深みにはまるだけであった。

 物語は、このゲリラ戦化した時代のあるコロニーから始まる。