戦闘機プラモデル界の「王者」とはなにか。そんな問いに多くの人が思い浮かべるのはおそらく零式艦上戦闘機(ゼロ戦)や航空自衛隊にも配備されているF-15、あるいは米空軍のステルス戦闘機F-22あたりでしょう。

 どれも圧倒的に知名度が高く、間違いなく名機と言える戦闘機であるだけに、国内外のメーカーから数々のプラモデルが作られてきました。しかし、それらを差し置いて、長い間にわたり世界中のモデラーから圧倒的な支持を集める戦闘機が存在します。

空母から発艦するF-14戦闘機 ©時事通信社

 空母で運用され、最前線に33年間配備され、誰もがイッパツで識別できる「可変翼」という特徴を持った戦闘機……そう、米グラマン社製のF-14 トムキャットです。世界でも米海軍とイラン空軍にのみ配備された史上最強の艦上戦闘機であるトムキャットは、“広報活動”という戦場でも最前線を走り続けた、真のスターと言える存在なのです。

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「見た目がドラスティックに変化するかっこいい変形マシン」

 F-14の一番わかりやすい特徴と言えば、主翼が前後に動く「可変翼」です。高速飛行時には後退し、発艦時やドッグファイト時には左右に大きく広がるこの機構は自動制御によるもので、高速飛行と高い運動能力という相反する性能を両立することに成功しました。

 高価で複雑な機構であることはもちろん、実用性にも長けたこの特徴は、われわれ一般人から見れば「見た目がドラスティックに変化するかっこいい変形マシン」にほかなりません。トムキャット以外にもこの仕組みを採用した航空機は実用化されていますが、じつのところ彼らの知名度はイマイチ。

ハセガワから発売されている、「F-14A トムキャット」大西洋空母航空団のプラモデル

 米空軍のF-111 アードバークやB-1 ランサー、ヨーロッパ製のトーネード、旧ソ連製のMiG-23 フロッガーやSu-24 フェンサーなどはメディアへの露出も少なく、少々マニアックな存在です。

 さらに、F-14専用の超高性能ミサイルAIM-54 フェニックスもトムキャットを神格化した一因です。フェニックスミサイルの射程は160kmを超え(東京~静岡間以上!)、1機のトムキャットから同時に最大6機の目標めがけて発射可能という化け物じみた特徴を持っています。

 しかし、その異常すぎる性能ゆえか、米海軍における発射記録はたったの3回だけ。「最強だけどその威力を真に発揮したことはない」というミステリアスな歴史が、F-14をさらに伝説的なものにしたと言っていいでしょう。