世界的巨大ターミナルから1日に数人しか使わないような小駅まで、日本には9000もの駅があるという。日夜乗っている電車の終点もそんなたくさんの駅のひとつだが、えてして利用者の多くはその手前の「いつもの駅」で下車してしまう。
そうした様々な終着駅を歩き続けた鼠入昌史氏の著書『ナゾの終着駅』より、一部を抜粋して掲載する。房総半島の終着駅「上総一ノ宮」で、地元の神社に売られていたお守り・波乗守。この珍しいお守りの背景にあったものとは——。
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一宮町はサーフィンの町だ。玉依姫命の伝説があるから、というよりは波の都合がいいからだろう。2021年に行われた東京オリンピックでは、サーフィンの競技会場にもなった。駅舎がリニューアルされたのはオリンピックの会場の最寄り駅という事情から。
実際には無観客開催になってしまい、新駅舎や合わせて整備された東口とその駅前広場も、ほとんど役割を果たすことができなかった。が、これをいまさらどうのこうのといったところで仕方のないことである。
オリンピックは無観客でも、サーファーの集まる町であることはいまも変わらない。
実際、線路を挟んで駅舎や中心市街地とは反対側の海に向かって歩いていくと、サーファー向けのショップや飲食店、宿泊施設などがいくつもあった。海沿いまで来れば、何人ものサーファーの姿を見ることができる。
そのひとりに聞いたところ「電車で来ることはないですねえ」。まあ、サーフボードを担いで通勤電車に乗るわけにもいかないので無理はないが、少なくとも一宮がサーファーの町であることは間違いなさそうである。
玉前神社の波乗守も、一宮がサーファーの町であることにちなんだのが本当のところのようだ。もしかしたら、玉依姫命は日本初のサーファーだったのかもしれない。
改めてサーファーの町であることを知って駅に戻ると、たしかにそれを示すものが駅の中にもあった。